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第81話 静かな波紋――街が変わり始める

翌朝。

蒼紋都市の空は澄みわたり、朝光が塔の魔導線を青く照らしていた。


ミナは宿を出る。

昨日までと違い――街の空気がやわらかい。


以前の視線は


「観察」「測定」「判定待ち」

だった。


今日の視線は違う。

静かに、しかし確かに変わっていた。


「あれが……認証された子だ」

「昨日の報告を読んだ……あれは模倣できない魔術だ」

「支配じゃなかった。あれは……寄り添いだ。」


ミナはまだ視線に慣れない。

胸の奥が少しむず痒い。


(怖くはない。

でも、まだ落ち着かない……)


その隣を歩くカイルが言う。


「自然に受け流せるようになる。」


ミナは小さく息を吐いた。


「まだ……時間がかかりそう。」


「時間は敵じゃない。」

カイルは短く返す。

その声は静かだが、ミナの肩の力を少し抜いてくれた。


◆学術院前の噴水広場


リアが資料を確認しながら言う。


「今日から正式に見学・聴講の申請が可能になりました。

研究室の見学、魔術理論講義、適性検査……選べます。」


ラウルが口を尖らせる。


「おい。ミナに休ませるって選択肢は?」


リア「ありません。」


ラウル「即答かよ!」


カイル「……当然だ。」


ラウル「お前まで当然の顔すんな!」


ミナは思わず笑った。


(……こういう時間、好きだな。)


その時。


控えめな声がした。


「すみません……ミナさん、ですよね?」


振り向くと、

魔導学院の制服を着た少女が立っていた。


緊張している。

けれど逃げずに向き合っている目。


ミナは微笑む。


「はい。わたしです。」


少女は深く頭を下げた。


「昨日の試験……見ていました。

あの……すごく、救われました。」


ミナは瞬きをした。


「救われた……?」


少女は自分の胸を押さえる。


「わたし……魔力制御が下手で……

授業で魔物を暴走させてしまった事があって……

皆にも怖がられて……

……自分なんて消えればいいって思ってました。」


言葉が震える。


(……これ……

昨日の試験と同じ気持ち……)


少女は続ける。


「でも……あなたが拒絶じゃなくて、

“寄り添っていいんだ”って言ってくれたように感じて……」


ミナの胸がきゅっと締め付けられる。


少女は深呼吸して笑った。


「だから、ありがとう。」


ミナはゆっくり返す。


「……わたしも同じだよ。」


少女が目を丸くする。


ミナは続けた。


「わたしもずっと、怖かった。

でも……怖いままでも進めるって、昨日やっとわかったの。」


少女の瞳に、安堵の光が灯る。


そして――一度視線を落としてから、


「……わたしも、進んでみたい。」


ミナは小さく頷き、微笑んだ。


「うん。ゆっくりでいいと思う。」


少女は涙をこらえながら笑い――走り去った。


その背を見送るミナの横で、リアが呟く。


「もう始まっています。」


ミナ「……何が?」


リアは空を見上げるように答えた。


「あなたを見て、救われる人たちの物語が。」


ミナの胸がふわりと温かくなる。


◆しかし──影は静かに伸びる


その頃。


都市の裏路地。

誰もいないはずの場所で、声がした。


「……認証された、か。」


男の声。

若くも年寄りでもない、抑えた響き。


別の声が続く。


「計画は変えるか?」


「いや。

むしろ都合がいい。」


黒衣の人物たちが、三角形を描くように立っていた。

その胸には――小さく刻まれた紋章。


蒼紋都市でも禁忌扱いの思想結社。


声の主は、静かに言った。


「動く前に、

“価値”と“限界”をもっと見せてもらう。」


仲間が問い返す。


「彼女は敵か?」


男は薄く笑った。


「まだ違う。

――だが、いずれどちらかは決めねばならない。」


風が吹き、影が消える。


◆夜。宿の部屋


ミナは窓辺に座り、星空を見ていた。


世界は動いている。

ゆっくり、だけれど確実に。


そしてその中心に、自分がいる。


まだ怖い。

まだ慣れない。

まだ迷うことだらけ。


でも――


「歩ける。」


その言葉は、かすかで、

でも消えることのない灯だった。


扉越しに、仲間たちの気配があった。


ひとりじゃない。


ミナは目を閉じ、微笑んだ。


──第82話へ続く

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