表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/230

第80話 観測結果――世界へ通知される名前

試験室の魔導陣が消え、扉が開く。

ミナが歩み出た瞬間――

研究院の空気が変わった。


視線が集まる。

しかしその目にはもう、


危険

でも

哀れみ

でも

疑念


でもない。


もっと静かで、もっと重い。


――認識。


レクシアが報告書を閉じ、魔導印を押す音が響いた。


パシン。


その一瞬で研究員たちの魔導端末に通知が走る。


【認証完了】

【新規分類:共感系魔術適応個体】

【対象名:ミナ・シュメール】

【評価:介入可能/高危険性なし/観察推奨】

【備考:接触許可→条件付き承認】


人々のささやきが動き始める。


「……認証された……」

「人間基準で扱われている……例外ではない……」

「研究対象ではなく”立場”だ……」


ミナは小さく息を吸った。


(……わたし、本当に認められたんだ。)


◆書類の境界線


レクシアはミナへ一枚の魔導書類を渡す。


光の板に文字が浮かびあがる。


《権利通知書》


リアがそっと解説した。


「研究対象ではなく、交渉者、観測者、または将来的協力者として扱われる証です。

……つまり――」


ラウルが代わりに言った。


「“お前に許可なく触れたり、研究したりできない”って立場だ。」


ミナの目が見開く。


それは単なる称号ではない。


世界との境界線。

尊厳の証明。


カイルが静かに言う。


「――よかったな。」


その言葉だけで胸が熱くなった。


◆世界の遠い反応


同じ頃。


◆王国・城内


玉座の間。

重い空気。


文官が震えた声で報告する。


「……ミナ・シュメール。

蒼紋都市にて正式認証。

権利保持者として登録されました。」


勇者パーティの前衛が立ち上がる。


「は? 待て、それは――!」


文官は続けた。


「彼女と関わる場合、

“対等交渉が前提”となります。」


場が凍る。


アリアは震える声で呟いた。


「……もう、庇護対象じゃない……」


沈黙が落ちる。


王族関係者の一人が静かに言った。


「つまり――

彼女はもう、こちらの所有ではない。」


勇者の拳が震えた。


しかし言葉は出ない。


◆帝国・参謀室


フェリクスが報告書を閉じる。


表情は変わらない。

しかし目だけが満足げに光る。


「……やはり、君は“交渉者”に昇る。」


部下が尋ねる。


「次の指示は?」


フェリクスは短く答えた。


「追うな。

――待て。」


その声は妙に柔らかかった。


◆調整局・研究部


セレンは報告書を読むと、静かに笑った。


「ああ……やっと自分の座標に立ったか。」


手元の地図に印がひとつ増える。


《ミナ:観測段階終了》

《分類:自由選択者(Free Will Holder)》


「次は世界が動く番だ。」


◆試験の余韻:夜の蒼紋都市


ミナは研究院の屋上に座り、街を見下ろした。


灯りが揺れ、風が横を通り抜ける。


胸に浮かぶのは不安でも誇りでもなく――


確かに今、自分がここにいる実感。


そこへカイルが隣に来る。


「疲れたか。」


ミナは笑う。


「うん。

でも今日の疲れは……嫌じゃない。」


リアも来て、静かに手すりに寄りかかる。


「あなたは今日、自分を取り戻しました。」


ラウルも肩をすくめながら座る。


「結果は十分だ。……胸張っとけ。」


ミナは夜空を見上げた。


星がゆっくり瞬いている。


そして、声にした。


「これからは……世界と話したい。」


カイルが答える。


「なら――

世界は必ず応える。」


風が吹いた。


ミナの髪が揺れる。


その瞳には、もう迷いがなかった。


──第81話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ