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第8話 護衛任務のはじまり

ギルドで依頼を受けた俺たちは、そのまま依頼人と顔合わせをすることになった。


受付嬢が案内した先には、白い外套をまとった中年の男性が立っていた。

柔らかな目元と穏やかな表情――その胸元には教会の紋章。


「お待ちしておりました。私は巡礼者ラウルと申します。

 森の奥の聖堂へ祈りを捧げに参る予定なのですが……どうか道中の護衛をお願いしたい」


穏やかな人だ。危険な依頼になりづらい。


リアが丁寧に会釈する。


「私たちはリア・ローゼン、カイル、そしてミナ・シュメールです。

 全力で護衛させていただきます」


ミナは少し緊張しながらも、しっかり頭を下げる。


「よ、よろしくお願いします……!」


ラウルは微笑んだ。


「よろしくお願いいたします。……どうか、無理だけはなさらずに」


その言葉は、護衛を頼む者としては珍しいほど優しい響きで、

一瞬だけミナの表情が緩んだ。


ギルド内の喧騒から離れたロビーで、軽い打ち合わせが始まった。


「護衛対象は私一人です。

 道中で遭遇する可能性があるのは狼程度で、危険度は低いと思われます」


「狼なら問題ありません。

 ただし……何かあればすぐ引き返します。聖堂到達より安全を優先します」


俺の言葉に、ラウルは驚いたように眉を寄せる。


「安全を……ここまで優先してくださる冒険者の方は、珍しいですね」


リアは迷わず答えた。


「私たちは依頼を成功させることより、仲間を失わないことを優先しています」


ラウルは、胸に手を当てて静かに頭を下げた。


「……素晴らしいお考えです。

 どうか、その心をずっとお持ちください。

 神はあなた方を祝福するでしょう」


その言葉に、ミナは僅かに息を呑んだ。

胸の奥にあった恐怖が、少しだけ溶けていくのがわかった。


話がまとまったところで、ラウルが席を外し、

俺たちは一息つくために近くのテーブルに腰を下ろした。


ここからはほのぼのタイムだ。


リアが小声で笑う。


「カイルさん、ギルドでのあの魔法……見事でした。

 絡まれたときは私が止めるつもりだったのですが、何もかも一瞬で」


「喧嘩を買う趣味はない。早く終わらせただけだ」


ミナが慎重に問いかける。


「こ、怖くなかったんですか……? ああいうの……」


「慣れてる」


「え、慣れてるんですか……?」


「ああ。嫌でも慣れた」


リアがくすっと笑う。


「そうでしょうね。無能扱いされながら、強かったなんて……

 さぞ理不尽な経験をされたと思います」


「まぁ、理不尽に慣れてる方が、冒険者向きだ」


ミナが小さく手を挙げる。


「わ……わたしも、慣れたいです……理不尽に……!」


リアも俺も、一瞬固まる。


「ミナ、それは慣れなくていい」


「う、うぅ……ですよね……」


肩を落として恥ずかしそうにするミナが微笑ましく、

周囲のギルド職員までほんのり笑顔になっていた。


買い物を済ませて宿に向かう途中、

ミナは両手で大切そうに抱えた紙袋から顔を出して言う。


「し、食材いっぱい買ってもらっちゃって……いいんですか……?」


「俺の楽しみでもある」


「カイルさんの料理、おいしいですもんね……!

 わ、わたし、すごく楽しみです!」


ミナが素直に喜んだので、リアも温かく微笑む。


「今日はパーティらしい夕食になりそうですね。」


旅の疲れが、どんどん溶けていく気がした。


――守るべきものができた旅は、やっぱり違う。


そんな空気のまま宿へ入り、温かい食事と柔らかい布団で一夜を過ごす。


そして翌朝――


ラウルとの護衛任務が正式に開始された。


しかし、この時の俺たちはまだ知らなかった。


ごく小さな護衛依頼のはずが、

街を揺るがす事件の “最初の一手” だということを。


森の向こうで――

こちらの進行を待つ影がじっと息を潜めていた。

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