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第78話 試験②:拒絶を越えて

第一試験の余韻がまだ残る空間。


魔導陣は再び光り、空気がうっすら震えた。


ミナはまだ魔獣の頭を撫でていた。

その温もりが、少し誇らしく感じられた。


だが――次の扉が開いた瞬間、空気は変わる。


冷たい。

それは暴力や怒りではなく、凍える拒絶。


現れたのは――人だった。


いや、元は人間だった者。


黒い拘束具、額に走る魔導刻印。

虚ろな目。

皮膚は青白く、魔力の流れが乱れている。


ラウルが低く呟く。


「……魔導汚染者テイント

感情も思考も崩壊寸前の人間だ。」


リアは静かに言う。


「怒りの魔獣と違い、こちらは――

“心を閉ざしきった存在”。」


レクシアは説明を加える。


「第二試験は“拒絶”。

彼は救助対象ではなく……“理解されることを拒む存在”。」


ミナは拳を握りしめた。


(人……

今度の相手は……人間なの……?)


カイルが短く言った。


「ミナ。条件は同じだ。

攻撃禁止、介入禁止。

――だが油断するな。」


拘束具の魔術が解除される。


次の瞬間――

その男は人ではない速度で動いた。


乾いた空気を割り、

ミナへ向けて一直線に手が伸びる。


爪ではない。

拳でもない。


“排除”の形。


ミナは身を引かない。

受け止める覚悟で立った。


しかし手が触れる寸前――男の動きが止まる。


止めたのは力ではない。

迷いでもない。


拒絶の衝撃。


ミナは胸が痛むのを感じた。


(……来るな、って……

そう思ってる……)


声にならない拒絶が、

心を刺すように伝わる。


ミナは小さく震える息で言葉を落とす。


「怖いんだよね……

誰かを見るのも、見られるのも……」


男の表情は変わらない。

目には空虚しかない。


ミナはさらに近づく。


だが――その瞬間。


男の魔力が爆ぜた。


拒絶が壁になる。

空気が鈍く震え、ミナの動きを拒む。


まるで彼自身が叫んでいるようだった。


『近づくな。

消えろ。

存在を押しつけるな。

関わるな。』


ミナの胸が締め付けられる。


(……苦しい……

これ、わたしも……昔、思った……)


夕暮れの中でひとり震えた日。

涙が出ても声にできなかった日。


「わたしなんて、いないほうがいい。」

そう思っていた頃。


胸の奥が熱くなる。


ミナはゆっくり息を吸った。


そして――囁くように言った。


「ねえ。

消えたいって思ったの?」


男の瞳が、ほんの微かに揺れた。


誰にも届かなかったはずの言葉。

誰も気づかなかったはずの痛み。


ミナは続ける。


「苦しかったのに。

誰も気づかなくて。

助けてもらえなくて。

言葉にもならない痛みを、

ずっとひとりで抱えてたんだよね。」


男の肩が、震えた。


吠えでも暴れでもない。


“崩れそうな心の震え”。


涙ではなく、声ではなく。

ただ、震え。


ミナはそっと手を伸ばした。


今度は触れようとしない。

ただ――近くにあることを示す距離。


「あなたを救えるって思ってるんじゃない。

あなたを正しい形に戻したいわけでもない。」


ミナの声は柔らかく、でも強い。


「――ただ。

ひとりで苦しまないでほしい。」


静寂。


時間が止まったような、優しい沈黙。


そして――


男はゆっくり膝をついた。


崩れるように。


ミナも膝をつき、そっと手を重ねた。


触れた瞬間――魔力が澄んだ。


拒絶の壁が、消えたわけじゃない。


ただ、“誰かと共に存在できる形”へ変わった。


レクシアは静かに告げた。


「第二試験――合格。」


ミナは震える声で呟く。


「……救えたんじゃない。

ただ、隣に立てただけ。」


カイルの返答は短くて優しい。


「それで十分だ。」


──第79話へ続く

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