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第65話 火花――交わらない声

レミアの空は晴れているのに、街の空気だけがざらついていた。


ミナたちが通りに出ると、

広場に人だかりができているのが見えた。


ラウルが眉をしかめる。


「……またか。昨日より人増えてんぞ。」


リアが素早く情報を拾う。


「支持派と拒絶派の“顔役”が、ついに前へ出たようですね。」


ミナの喉がかすかに鳴る。


(……とうとう、表に…)


カイルはミナより半歩前を歩き、群衆へ視線を向けた。


◆支持派の旗


広場中央、木箱の上に立つ男。


年齢は四十前後、鍛えられた声と堂々たる姿勢。


肩に下げた紫の布には、

“救済”の文字が刺繍されている。


彼は人々に向かって宣言していた。


「彼女は“異端”ではない!

祝福された者だ!」


「昨日、少女を救った!

力は“脅威”ではなく“希望”だ!

恐れる者こそ未来を拒む者だ!」


周囲から拍手と歓声が上がる。


その中心人物――

人々はあの男を「アーネスト」と呼んでいた。


リアが呟く。


「利用思想が強い。

“英雄像の固定”を狙っています。」


カイルは淡々と頷く。


「旗を掲げる者は、次に“陣”を作る。」


◆拒絶派の応答


アーネストが言葉を終えた瞬間、

反対側の群衆が動いた。


その先頭に立つのは――

黒衣をまとった教会系の男。


冷たい目。

祈りの象徴――ではなく、断罪の意志が宿っていた。


声は静か――だが響く。


「救いが存在するなら、試練も存在する。」


「彼女が魔を従えたことは祝福ではない。

神の体系を揺るがす“逸脱”だ。」


「神が選んだのでなければ――

それは“偽りの力”。」


支持派から怒号が上がる。


「じゃあ見捨てろってのか!」


「救ったのは事実だろ!」


拒絶派も応じる。


「救いではない!

制御不能だ!」


「それは災害だ!

人の手に余る!」


空気が濁り、距離が狭まる。


決着のためではなく、ぶつかるために。


ミナは拳を握る。


(わたしが……原因……。)


その思考に沈もうとした瞬間――


カイルの声が、短く刺さった。


「ミナ。下を向くな。」


ミナは反射的に顔を上げる。


カイルは視線を前に向けたまま言った。


「原因じゃない。

“きっかけ”だ。」


リアも補足する。


「世界は変化を恐れます。

ですが――変化しない世界は滅ぶだけ。」


ラウルも笑う。


「つまり気にすんな。

勝手に盛り上がって勝手に揉めてる。」


ミナの胸が、少し軽くなる。


(……みんな……ありがとう。)


だが、群衆は止まらず――


◆火種


拒絶派が支持派へ詰め寄る。


肩がぶつかり、怒号が飛び、拳が握られる。


あと少しで暴力に変わる。


ミナは一歩踏み出す。


「――やめて!」


声は大きくなかった。


なのに――

広場全体が一瞬止まった。


皆がミナを見る。


恐れ。

期待。

判断。

祈り。


混じり合わない願い。


ミナはゆっくり言った。


「わたしは……争いのために力を持ったんじゃない。

誰かを助けるために……使いたい。」


沈黙。

誰も答えない。

でも――誰も動かなかった。


その静けさに、

暴力は消えたわけではない。


ただ――先延ばしにされた。


しかし、それは十分意味があった。


◆静かな時間(支え)


宿に戻ったあと。

ミナは椅子に座り、深く息を吐いた。


「……止められた、かな……」


カイルは答えず、ミナの前に温かいスープを置いた。


リアもパンと焼き野菜を並べる。


ラウルは肩で笑う。


「この状況で飯がまずくなったら負けだ。」


ミナは思わず笑った。


そして、ゆっくり食べながら小さく言う。


「ありがとう。

……今日、こわかった。」


カイルは短く言う。


「こわいほうがいい。

こわいまま立っている者の言葉は、いつか届く。」


ミナはほんの少し強い声で答えた。


「……なら。

わたしはまだ、立つ。」


その瞬間――

ミナの心にひとつ、答えが生まれた。


まだ曖昧で、輪郭のない答え。

でも確かに――そこにある未来の形。


──第66話へ続く

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