表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/71

第6話 格の違い

焚き火の向こう——闇の中に、赤い光が2つ、ゆっくりと浮かんだ。


目だ。

冷たく、獣のように光る暗赤の双眸。


夜気を切り裂く声が響く。


「……見つけたぞ。ミナ・シュメール」


名指しだ。


やはり狙われていた。


眠るミナに向けて殺気が向けられた瞬間、反射的に俺の体が動いていた。


一足で焚き火を飛び越え、刺客とミナの間に立つ。


「悪いが、通さない」


闇の中から現れたのは、一体の魔族。

黒革のような皮膚、鋭い爪、夜に同化する影のマント。


「契約対象を保護──排除対象と認定」


抑揚のない声で呟くや否や、魔族は影のように消えた。


——高速だ。

普通の冒険者なら目で追うことすらできない。


だが俺は、視界から消えるより先に動いた。


ユーラリ、と軽く首を傾けただけ。


刹那、背後で空を裂くような音。


魔族は俺の首を狙って爪を振り抜いたはずが——そこには俺はいない。


「遅い」


背後から声をかけると、魔族の肩が跳ねた。


どうやって、と迷っている暇すら与えない。


俺は指先で軽く魔族の胸を突く。


「《重圧点破り》」


指一本。

それだけで、地鳴りのようなインパクト。


魔族の体は弾丸のように後方へ吹き飛び、大地を抉りながら木々を十数本なぎ倒した。


それでも魔族はすぐに立ち上がった。

さすがは魔王軍の精鋭。


「……無詠唱の魔術……高位か……?」


理解が追いつかないのか、混乱の気配がにじむ。


だが次の瞬間、魔族の瞳が爛々と光った。


「いい。ならば殺す順を変える。まず貴様だ、禁呪継承者――カイル」


その瞬間、俺の背中が冷えた。


——名前を知っている。


まだ誰も知らないはずの名。

追われる覚悟はしていたが、思ったより早い。


魔族は影を広げ、夜を黒の刃へと変えた。


「《影裂波シャドウディバイド》」


空間を切り裂く巨大な斬撃。

範囲攻撃。避けても追撃を受ける。


なら——正面から行く。


俺は前へ踏み込む。


「対影属性魔術、第三階位」


指を鳴らす。


「《光槍・零式パージランス》」


光の矢が、夜そのものを貫いた。


一瞬で影の刃は砕け散り、魔族の胴体に直撃。

胸から背中へ、穴が開く。


魔族は信じられないという顔で倒れ、痙攣しながら呻く。


「……かっ……閣級魔術を、無詠唱……? そんな制御、存在しない……」


俺は無言で歩き、倒れた魔族の前に立った。


「一つ質問だ。

 ミナ・シュメールを狙う理由は?」


魔族は唇を震わせ、狂気の笑みを浮かべる。


「教えるわけ──ない……! 我らは死しても沈黙を──」


——ならいい。


俺は右手をかざす。


「《魂封じの鉄槌ソウルクラッシュ》」


衝撃すら起きない。

魔族は、光の粒になって消滅した。


跡形もなく。


静寂が戻った。


焚き火がぱちりと弾ける。


後ろを振り返ると——

ミナは目を覚ましてしまっていた。


涙を浮かべ、震えながら俺を見つめている。


「カイル……さん……」


怯えかと思った瞬間、違うと気づいた。


その目は、不安でも恐怖でもなく——


縋るような信頼だった。


自分を確かに救ってくれる存在を、見失わないように。


ミナは震える声で問う。


「……わ、わたし……狙われてるんですか……?

 どうして……どうしてわたしが……?」


答えは、まだ断片しかない。


だが、はっきりと言えることが一つある。


俺は膝をつき、ミナの頭にそっと手を置いた。


「理由も、全部調べる。

 だが安心しろ。おまえを傷つけさせる奴は――誰であろうと俺が殺す」


ミナの肩が震え、こくりと小さく頷いた。


リアは剣を握ったまま強く言う。


「ミナさんは私たちの仲間です。

 何があっても守ります。絶対に」


焚き火の光に照らされ、三人の影が寄り添う。


その背後で、夜が静かに揺れた。


ミナが狙われている理由とは何なのか。

魔王軍の目的は何なのか。


そして——

追放された“無能”に向けられた、次の脅威とは何か。


旅は、もう後戻りできないところへ向かい始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ