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第53話 密室の火花――国家と神と帝国の卓上戦

レミア中央塔。

街でもっとも堅牢とされ、戦時には軍事司令拠点となる場所だ。


その最上階の円卓室に――

三勢力の代表が静かに座っていた。


扉は閉ざされ、護衛すら部屋の外。

内部にいる者は、それぞれ国家の最上位判断権を持つ者たち。


・帝国特使 ヴァルター=ラインハルト

・教会枢機卿代理 シスト=バレオン

・王国議会代表 ミリアン=フォード公爵


三人の間には、分厚い静寂が漂っていた。


ミリアンが最初に口を開いた。


「さて――本題に入りましょう。

ミナ・シュメール。

あの少女について、だ。」


声は丁寧だが、威圧が隠されている。


シストが冷ややかに応じる。


「本題などひとつ。

危険因子だ。

保護と拘束を前提とした扱いが妥当。」


ヴァルターは反論しない。

ただ、淡く笑う。


「“保護”という言葉は便利だな。

支配と何が違う?」


シストの瞳が細くなる。


「帝国が言うか。

利用したいという本音くらい、隠し通せばよいものを。」


ヴァルターは返す。


「利用ではない。

対話と共存だ。

少女は意思を持ち――選択できる。」


その言葉に、ミリアンが指先で机を叩いた。


「選択……?

帝国はずいぶんと情緒的だな。

国家とは結果で動く。

少女の感情は指標にすらならない。」


ヴァルターの視線が鋭くなる。


「では聞こう。

王国は少女をどう扱う?」


ミリアンの笑みは薄く、鋭い。


「――資源だ。」


空気が凍った。


ミリアンは続ける。


「兵器ではない。

象徴でもない。

資源。

資源とは、管理し、運用し、利益と安定を生む存在だ。」


シストが皮肉を込めて笑う。


「つまり、帝国と同じだ。」


「違う。」

ミリアンの声は明確だった。


「帝国は少女を“未来の権力装置”として維持する。

だが王国は少女を“均衡装置”として扱う。」


ヴァルターが眉をわずかに動かす。


均衡バランス……?」


「そうだ。

少女は世界を変える力を持つ。

ならば――

世界を変えないために使えばいい。」


シストとヴァルター、両者が沈黙する。


ミリアンは淡々と続ける。


「国家は革命を好まない。

変化もまた然り。

不安定が最大の敵だ。」


シストがゆっくり言葉を繋ぐ。


「つまり――少女を**“鎖”として使う、と。」


ミリアンは微笑む。


「理解が早くて助かる。」


ヴァルターの声が低く、冷えた。


「……どちらにせよ、少女の意志は存在しない前提だな。」


シストが応える。


「少女の意志など――神の前では無意味だ。」


ミリアンが重ねる。


「国家の前でも同じだ。」


ヴァルターは目を閉じ、短く息を吐いた。


そしてテーブルに手を置き、静かに言う。


「なら――帝国は立場を明確にしよう。」


目を開いたとき、その瞳には鋼が宿っていた。


「少女は“誰のものでもない”。

少女を所有しようとする勢力を――帝国は敵と認定する。」


空気が割れた。


シストが神具に触れ、声を低く落とす。


「帝国が神に刃向かうか。」


ヴァルターは即答する。


「神が少女の自由を奪うなら――

その神を敵とする。」


ミリアンが深く息をつき、言う。


「……ヴァルター。

その言葉は、帝国全体の判断ではないな?」


ヴァルターの答えは短い。


「個としての宣言。

だが、撤回はしない。」


ミリアンは肩をすくめる。


「面白い。

だが覚えておけ。

世界は理念ではなく――結果で動く。」


シストも同意するように告げる。


「少女が世界を乱すなら――神の名の下に 終わらせる。」


ヴァルターは視線を返し――切り返す。


「少女が世界を救うなら――

神も国家も、黙って従うべきだ。」


沈黙。


炎のようでも氷のようでもない、ただ鋭い沈黙が、円卓に落ちた。


◆密談の終わり、戦略の始まり


扉が開く。


だが、円卓にいた三人は――

まだ互いから視線を外さなかった。


この会議は終わりではない。


戦争の形が整っただけだ。


そして唯一確かなことがある。


――ミナの選択ひとつで、この三勢力の勝敗が決まる。


ヴァルターは退出しながら小さく呟いた。


「ミナ。

世界は今――お前の答えを恐れている。

だが俺は――

その答えを、聞きたい。」


廊下に靴音が遠ざかる。


その音は、

決意とも、祈りとも、決戦の足音とも解釈できた。


そして夜は深まり、世界は次の局面へ進む。


──第54話へ続く

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