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第45話 包囲の街レミア ― 戦火の気配と揺れる選択

鐘の音は止まない。

街レミアの上空に、何層もの緊張が重なっていく。


兵士が走り、民が扉を閉め、窓から怯えた目が覗く。


そして――空には旗が翻った。


王国軍の紋章。

その後ろに教会の白旗。


まるで獲物を囲む獣のように、

ゆっくりと、しかし確実に街へ迫っていた。


ミナは震える息を吐いた。


「……来ちゃった……本当に……」


リアが肩を支えながら静かに言う。


「大丈夫です。ミナさんはひとりではありません。」


ラウルは腰の短剣を確認しながら笑う。


「いやー、とうとう大人気だな俺たち。モテモテじゃん。」


ミナ「絶対違う意味のモテ方ですよね!?」


ラウル「まぁな!守備範囲広くて困るぜ!」


リア「誇るところじゃありません」


そのやり取りに微かに笑みがこぼれ――

だがすぐに、空気は戻る。


戦か、交渉か、潜伏か。


この街は今、その三つの未来が重なった岐路に立っていた。


そしてその中心に――少女ひとり。


ヴァルターが一歩前に出る。


表情は変わらない。だが、声に僅かな熱が宿る。


「状況は単純ではない。

王国軍と教会は即時拘束を望む。

だが帝国は――違う。」


ミナは不安を押し込め、問いかけた。


「……帝国は、どうしたいんですか?」


ヴァルターは答えた。


「――交渉したい。

奪うのでも、封じるのでもなく。

“未来の権利”を正しく話し合いたい。」


その言葉に酒場の客たちがざわめく。


「交渉……?」


「帝国が?本気か?」


「少女と話すだと……?」


ミナは小さく息を吸い――言う。


「……でも。

わたしたち、戦わなきゃいけない時も……あるんですよね?」


カイルが答えた。


「“選ぶために戦う”ならな。」


ヴァルターは頷く。


「選びたくない戦いは避けるべきだ。

だが逃げるだけでは未来は掴めない。

――だから提案する。」


彼は手袋を外し、テーブルに乗せた。


「一時協力関係の締結だ。」


リアとラウルがわずかに身構える。


ミナ「協力……?帝国と?」


「必要なのは共闘ではない。

利害の一致だ。」


ヴァルターは指で机を軽く叩きながら続ける。


「この状況で最悪なのは――

王国軍と教会が少女を確保し、

帝国も魔王軍も焦り、

世界が“少女争奪戦”に突入すること。」


ミナの表情が曇る。


「……それって……戦争ですよね……」


「そうだ。

世界規模の、終わりなき正義の衝突だ。」


ヴァルターは言葉を区切り、最後に問う。


「少女。

――君は、それを望むか?」


ミナは即答できなかった。


怖いからじゃない。

わからないからでもない。


自分が答える言葉が、世界を動かす可能性があると理解してしまったから。


沈黙。


その沈黙を破ったのは――


外から聞こえた叫び声だった。


「侵入者!!

街壁南側――教会騎士団、突破!!!」


続いて――


「北門!王国軍突入!」


「東路地に“暗部”の影!一般人避難が間に合わない!」


街が――火の粉が散るように混乱し始める。


リアが顔を上げる。


「ミナさん、下がって!」


ラウルが短剣を抜き、入り口へ体を向けた。


カイルはミナの手を握り、静かに言う。


「ミナ。選べ。」


ミナ「え……?」


「逃げるか。

隠れるか。

戦うか。

交渉するか。

それとも――全部役割分担して乗り越えるか。」


ヴァルターが低く付け加える。


「決断は今だ。

遅れれば、誰かが勝手に“未来を選ぶ”。

それがもっとも愚かで悲しい終わりだ。」


ミナは息を震わせ――

ゆっくり手を胸に置いた。


心臓が強く脈打っている。


怖い。

でも――その奥に熱がある。


遺跡で選んだ未来。

守りたい旅。

笑っていたい時間。

カイルたちと歩きたい道。


ミナは顔を上げ、まっすぐ前を見た。


「――わたし。

逃げません。

どれかじゃなくて……全部やります。」


リアが目を見開き、笑った。


ラウルが肩を叩いた。


カイルは小さく頷いた。


ヴァルターは――微かに目を細めた。


ミナは仲間と視線を交わし、言う。


「街を守る。

戦う人を減らす。

その上で――未来の話をする。

……それが、わたしたちの答えです。」


ヴァルターは胸に手を当て、深く一礼した。


「理解した。

――帝国として、協力しよう。」


そして、剣が抜かれ、足音が迫る。


街は火薬の匂いと叫び声に包まれ――


だが、一行は静かだった。


ミナの声が、戦火の直前に落ちる。


「――行こう。」


未来を奪われないために。

自分で選んだ答えを守るために。


ここから、戦いと交渉と逃走と対話が同時に始まる。


──第46話「包囲戦開幕 ― 混成戦闘・心理戦・潜入交渉」へ続く。

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