表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/72

第42話 それぞれの歩幅――街を歩き、未来を探す日

翌朝。

宿の窓から差し込む光は柔らかいのに、空気には緊張が混じっていた。


街に入って二日目。

動く前に――情報を確実に掴む必要がある。


朝食後、全員で簡単な作戦会議が行われた。


カイルが地図を広げ、短く言う。


「今日は分担だ。それぞれ違う方面から情報を取る。

敵の動き、味方候補、利用できるルート――全部洗う。」


ラウルが嬉しそうに指を鳴らす。


「お、やっとスパイごっこじゃなくて本命の潜入捜査ってやつだな」


リアはため息をつく。


「遊びではありませんよ。」


ミナは椅子の上でそわそわしている。


「……わたしも行きます。役に立ちたい。」


カイルは一度ミナを見てから、静かに頷いた。


「もちろんだ。

ただし――行動は必ず二人組で。」


ラウルが手を上げる。


「はい。俺は情報屋区画を中心に回る。

昨日の反応からして、裏社会のほうが噂は早い。」


リアは真面目に答える。


「私は商人と一般市民層を回ります。

民衆の声は上層とは違う形で真実を含みます。」


ミナが小さく手を挙げる。


「じゃ、じゃあ……わたしは……」


カイルがミナの肩に手を置き、ゆっくり言う。


「――俺と来い。

魔術師団と教会側の動きを探る。」


ミナ「っ……はい!」


ラウル(小声)「デートじゃん」


リア(小声)「黙りなさい」


こうして――四人は街へ散った。


◆ラウルの視点:裏路地と黒い市場


酒と煙草の匂いが濃い、昼間でも薄暗い区画。

金よりも噂が価値になる世界。


「よぉ、昨日の兄ちゃんか」


昨日話した情報屋が煙を吐きながら声をかけてきた。


ラウルは軽く手を上げる。


「帝国の動き、もう少し詳しく知りたい。」


情報屋は指を一本立てる。


「タダじゃないぞ。」


ラウルは袋から金貨一枚を机に置く。


情報屋の目が細くなる。


「……帝国の目的は“少女の奪取”じゃない。

“少女の覚醒条件の解読”だ。」


ラウルの空気が変わる。


「……どういう意味だ?」


情報屋は声を潜めた。


「帝国は確信してる。

“少女はまだ完成していない”。

だからこそ――“完成する前に制御法を確立したい”。」


ラウルは小さく舌打ちした。


「……完成すれば、もっと危険ってことか」


情報屋はニヤリと笑う。


「危険じゃない――“世界を書き換えられる”。

帝国はそれを『覇権』と呼んでいる。」


ラウルは表情を変えず立ち上がった。


(――ミナさんに絶対言わせねぇよ。“お前は道具だ”なんて。)


◆リアの視点:市場と民の声


リアが向かった市場は賑やかで温かい。


だが――その中に、恐れと期待が入り混じった“ざわめき”がある。


パン職人の青年が言った。


「……もし本当に“鍵の少女”がいるなら……

世界は変わるのかな?」


老婦人は逆の言葉を残す。


「変わらなくていい。

今のままでいい。

大きな力は戦争を呼ぶだけだ。」


リアは問い返す。


「少女が選んだ未来なら?

それが戦争ではなく――平和に繋がるなら?」


青年は目を逸らす。


「それができたのは……童話の中だけだろ。」


リアは歩きながら思う。


(……ミナさん。

あなたが歩く未来は、想像以上に多くの人の“願い”と“恐れ”を背負っている。)


だが――心の奥底で確信する。


(だからこそ、あなたは歩くべきです。

その足で、“結果を変える旅”を。)


◆カイルとミナの視点:教会と沈黙


教会前は昨日より緊張していた。


祈りではなく――監視の静けさだ。


ミナは小さく息を飲む。


「……怖い」


カイルは落ち着いた声で返す。


「怖がっていい。

ただ――止まるな。」


教会の扉近くで、若い修道士がこちらを見つめていた。


ミナが歩み寄ると、修道士は震える声で言った。


「……あなた、ですか……

“選んだ少女”……」


ミナの瞳が揺れる。


「わたしを……知ってるんですか?」


修道士は周囲を見回し――低く告げる。


「教会上層部はあなたを“神の器”と呼びます。

ですが――本来の教義では、違う。」


ミナ「……違う?」


修道士は祈るように手を組んだ。


「あなたは“器”ではなく――

裁定者ジャッジメント”。

未来に対する、最後の意志決定者。」


ミナの呼吸が止まる。


そして修道士は震える声で続ける。


「どうか――間違えないでください。

あなたの選択ひとつで――

戦争にも、救いにもなる。」


カイルはミナの肩に手を置いた。


「決めるのはお前だ。

その権利は――奪わせない。」


修道士は微笑むでも怯えるでもなく、ただ深く頭を下げた。


「――あなたが“自由に選べる世界”になりますように。」


風が冷たく吹き抜けた。


その帰り道、ミナはぽつりと言った。


「……カイルさん。

わたし……怖いのに……


 それでも……


 未来を選べるのが……嬉しい。」


カイルは答えた。


「それでいい。

それが――人間だ。」


ミナは涙をこぼさないまま、笑った。


その夜、全員再び酒場に集まる。


それぞれの情報を持ち寄り、静かに共有し合う。


世界はすでに動き始めていた。


しかし――

彼らの絆もまた、同じだけ強くなっていた。


嵐は近い。

準備期間は、もう長くない。


──第43話へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ