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第39話 揺れる旅路 ― 情報と影と、それでも続く未来

遺跡を後にし、街道へ戻った頃には、空は淡い橙から薄紫へと溶けゆく途中だった。


風は冷たい。

けれど、遺跡の冷たさとは違う。

生きている世界の風だった。


ミナが小さく息を吐く。


「……外に戻っただけなのに、景色が変わって見えます」


リアが歩きながら微笑む。


「ミナさんが変わったからですよ。

世界はいつでも同じ。

変わるのは、自分と――見える景色です」


ラウルは背負っている荷物を少し上げ直し、


「いやいや、俺はミナさんの言い分わかるぞ。

遺跡って心に反則みたいな圧掛けてくるじゃん?

生きて戻ると全部ドラマチックに見えるよな」


「言い方が軽すぎます」


リアが呆れながらも笑った。


その空気は温かかった。

旅の疲れはあっても、足取りは軽い。


だが、歩き続けるうちに――

少しずつ、別の空気が混ざる。


緊張。

ざわつき。

遠くの空に立ち昇る煙。


ミナが立ち止まった。


「……あの煙……」


ラウルが目を細める。


「街だな。どでかい焚火でもやってるか……いや違うな。

戦か、魔獣か……最悪、追跡部隊か」


カイルは即座に判断する。


「まず、慎重に接近する。

堂々と入るのは得策じゃない」


リアも頷く。


「それに……フェリスさんの話を聞く限り、

どこかの勢力がこの街も押さえている可能性があります」


ミナは胸元の《未来鍵》を押さえた。


「行かない選択肢は……ないですよね」


俺は短く答える。


「――ああ。

情報が必要だ。世界がどう動いているか、知る必要がある。」


そして、一行は街へ向かった。


◆◆◆


街の名前は《レミア》。

遺跡に最も近い場所として、旅人や研究者が多い街だった。


しかし、門には兵士が立ち、街は以前より緊張していた。


門兵が警戒した目で声をかける。


「身分証の確認だ。

この街は現在――王国の“臨時管理区域”だ」


リアが小声で呟く。


「……やはり来ていますね、王国軍」


ラウルは肩を竦め、少しふざけた調子で答えた。


「観光客で~す。宿と飯が必要なんで~す」


兵士は舌打ちするように鼻を鳴らした。


「目的を聞いている」


そこでミナが、小さな声で口を開く。


「……ただの旅です。

 わたしたち、逃げてません。

 未来を探してるだけです」


その言葉は嘘でも本音でもある、不思議な響きを持っていた。


兵士はミナの顔をじっと見つめ――

視線をそそくさと逸らした。


その反応に、リアとラウルは気づく。


(……噂が流れてる)


(少女……ってワードで反応したな)


兵士は書類に印を押し、言った。


「……通れ。

気をつけろ。“鍵の少女”を狙った連中がうろついてる」


ミナの肩が小さく震えた。


リアはそっと背に手を置く。


カイルは兵士に短く礼を言い、街へ入った。


◆◆◆


街には噂が渦巻いていた。


「聞いたか?遺跡が開かれたって話」


「“鍵の少女”が現れたらしい。世界が変わるだとか」


「いや、違う。あれは災厄だ。

世界が壊れる前触れだ」


商人、旅人、情報屋、魔術師――

誰もが噂し、恐れ、期待し、混乱していた。


ラウルがため息をつく。


「うーん……ミナさん有名人。

良くも悪くも、な」


ミナは困ったように笑って答えた。


「……わたし……そんなつもりじゃ……」


カイルはゆっくり言葉を落とす。


「運命に“つもり”は関係ない。

お前が選んだなら、それは現実になる。」


ミナはその言葉に息を呑み――しかし、笑った。


「……うん。

なら、ちゃんと選んだ未来を歩かないと。」


リアは誇らしげに頷く。


「その言葉だけで十分です。

世界がどう動いても、私たちは――ミナさんと同じ道を歩きます。」


ラウルが笑う。


「まぁ、危険は増えるが……それも旅の醍醐味だろ」


そして、一行は情報屋が集まる酒場へ足を向けた。


その扉を開いた瞬間――


空気が変わる。


ざわつき、視線、沈黙。


誰もがミナたちを見た。


そして――


カウンターの奥、フードを深く被った人物が

小さく微笑む。


その目は――フェリスに似た、“観測者の目”。


「やっと来たね。

君たちを待っていた。」


世界は止まらない。

街も止まらない。


そして――


ミナたちの旅も止まらない。


──第40話へ続く。

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