第28話 森を越えて──古代遺跡への道
封印勢力を退けた直後。
森は静まり返っているように見えたが、
敵意は消えていない。
導師は地に膝をつきながら、震える声で告げた。
「……逃げられると思うな……
ここは封印の守り手の土地……
森そのものが、お前たちを拒む……!」
その言葉どおり――
森の木々がざわめき、空気が変質した。
カイルは状況を即座に読み取る。
「戦闘は終わりじゃない。森が襲ってくる。動くぞ」
リアがミナの手を取り、強く頷く。
「森の出口へ! カイルさんを先頭に!」
ラウルも構え直す。
「生きて森から抜けるんだ……!」
4人は森の奥へ駆け出した。
森はすぐに牙を剥く。
木の根が地面からせり上がり、道を塞ぐ。
枝が絡みつき、逃走方向を変えさせようとする。
霧が視界を奪い、方向感覚を奪ってくる。
リアが剣で根を断ち切りながら叫ぶ。
「これじゃあ……出口まで辿り着けません!!」
ミナも息を荒げながら問いかける。
「この森、わたしたちを閉じ込める気なんですよね……!?
どこも出口に繋がってないみたい……!」
ラウルは苦々しく呟く。
「森が“道を変えている”んだ……!
封印勢力が追ってこなくても、森が捕まえに来る!!」
その時――
周囲の霧が波打ち、
古代文字の光が森の空間に走った。
ミナが震える声を漏らす。
「……なにこれ……?」
カイルはすぐに解析し、答えた。
「封印の術式だ。修復じゃない……“捕縛”の型だ」
――ミナを取り戻すために森が動き始めた。
導師たちは倒れた。だが森は倒れていない。
リアは歯を食いしばる。
「ミナさんを連れ戻すためなら……森全体が敵になるなんて……!」
ラウルが叫ぶ。
「ならば道は一つ!! 古代遺跡へ逃げるんだ!!
遺跡は封印以前の文明の結界だから、森の術式が干渉できない!!!」
ミナは一瞬だけ怯える。
「遺跡って……危なくないんですか……?」
ラウルは迷わず答えた。
「危ない! でもここよりマシだ!!
遺跡の内側だけは“封印の森が干渉できない唯一の領域”なんだ!!」
カイルは判断を下す。
「行く。
ミナ、怖くても俺から離れるな」
「離れません……絶対!!」
森が全力で妨害を始める。
霧の中に無数の獣の影。
木々の間から魔力の奔流。
足元の土が崩れ、沼が生まれる。
リアとラウルが前後左右で応戦しながら、
カイルはミナを抱き寄せるように守り抜く。
ミナは震えながらも支援魔法を撃ち続ける。
「リアさんに加速……ラウルさんの視界補助……!
カイルさんには防御結界っ!!」
リア「助かります!!」
ラウル「支援のおかげで撃ち漏らさない!!」
支援が戦線を維持し続ける。
しかし――
森が最後の一手を仕掛けてきた。
地面が大きく割れ、
二手に分断されるような裂け目が生まれる。
ミナとリア・ラウル側、
カイル側。
ミナは絶叫する。
「離れちゃダメ!! カイルさん!!」
カイルは迷わず飛んでミナの方へ渡ろうとする――
だが、木々の根が生き物のように絡みついてくる。
ミナの顔が絶望で染まる。
「いやだいやだいやだ!! 置いて行かれるのはいや!!
誰も犠牲にならないで!!
みんなで行くの!!!」
その瞬間。
森の封印術式がミナの叫びに反応した。
ミナの魔力が爆発的に高まり、
光の奔流が木々の根を吹き飛ばした。
リアとラウルがミナを支え、
カイルが大地を蹴って裂け目を飛び越える。
ミナは涙でぐしゃぐしゃの顔で叫ぶ。
「ぜったい全員で生きるの!!!」
カイルはその手を掴み、応える。
「当然だ。
俺たちの旅は、全員で前に進む旅だ」
森がさらに追撃を始めようとする――
しかし、木々の隙間から光が差し込んだ。
ラウルが叫ぶ。
「あれだ!! 遺跡の入り口!!!」
半崩壊した古い石造りのアーチ。
その奥に続く階段――
古代遺跡。森の干渉が届かない唯一の避難所。
ミナが涙を拭い、頷く。
「みんなで生き延びて……未来を掴むんです……!」
リアが剣を掲げて叫ぶ。
「突破します!!!」
カイルが結界を展開。
「ミナ、走れ。俺たちが絶対に守る」
4人は遺跡へ――
大地が揺れ、森が悲鳴のような音を上げる。
最後の瞬間、カイルが振り返り、
森そのものに告げた。
「何度襲ってきても同じだ。
ミナの未来は、お前らには奪わせない」
遺跡の結界が発動し、
森との境界が閉ざされる。
激しい追撃の音は消え、
静寂が訪れた。
4人はついに聖域の森から脱出した。
そして――
ここから、新章が始まる。
古代遺跡編。
封印以前の文明。
鍵の真相。
ミナの力。
カイルの禁忌の魔術。
この世界の歴史そのもの。
すべてが、この遺跡の中に眠っている。
——第29話へ続く。




