第24話 潜伏限界、動き出す時
翌朝。
宿の老人から告げられた言葉は、状況の変化を示していた。
「昨夜からギルドだけじゃなく『教会兵』まで巡回に加わった。
市民にも“鍵の少女の特徴”を覚えさせている。
……ここも、もう長くは隠し通せん」
リアの表情が引き締まる。
「完全に追いつめに来ていますね……」
ミナは拳を握りしめて俯いた。
「わたしのせいで……ご迷惑を……」
老人は首を振った。
「迷惑じゃねぇ。守りたいものがある奴の目をしてる。
あんたらが出ていくまでは絶対に売らん。
だが、敵がこの宿に辿り着くのも時間の問題だ」
カイルは静かに頷いた。
「恩は忘れない。ここは出る。夕刻でいいか?」
「夕刻なら見回りが一度入れ替わる隙がある。そこを狙え」
部屋に戻り、3人で今後について話す。
リアは荷物をまとめながら言う。
「街を出たほうがいいですね。
人目の多い場所は、今のミナさんには逆に危険です」
ミナは真剣な表情で聞く。
「じゃあ……どこへ向かうんでしょうか……?」
ラウルが答える。
「“聖域の森”です。
そこには――祠で語った“封印”を管理している組織があります」
リア「安全な場所なんですか?」
ラウル「……完全ではありませんが、
少なくとも“鍵を保護しようとする”勢力です」
カイルは鋭く尋ねる。
「保護か。拘束か。どっちだ?」
ラウルは痛みを伴うように沈黙し――答えた。
「……“保護を理由に拘束しようとする可能性が高い”。
だがそれでも、ミナさんの命は守られる」
ミナは静かに目を閉じた。
「命だけ守られて……自由はなくなる……?」
ラウルは否定できなかった。
ミナはゆっくり顔を上げる。
「それでも行きましょう。
命を取られるよりマシです……
それに……わたしはまだ、カイルさんとリアさんと旅を続けたいから……」
リアは驚き、そして嬉しそうに微笑む。
「ミナさん……!」
カイルも小さく応える。
「守るのは命だけじゃない。
おまえの“選びたい未来”も守る」
その言葉に、ミナの目が揺れながら強く光る。
夕刻。
出発の準備が整い、宿を去る時が来た。
ミナは老人に深く頭を下げた。
「本当に……ありがとうございました。
わたし――生き延びて、また会いに来ます……!」
老人は仏頂面のまま、大きく手を振った。
「その時はもっと旨い飯を出してくれ。待ってるぞ」
ミナは涙を拭きながら微笑んだ。
裏口から街道へ向かう途中――
カイルは足を止める。
「気配だ。付けられてる」
リアは即座に戦闘姿勢。
ミナは怯えながらも杖を構える。
屋根の上、路地の影、裏道すべて――
複数の視線が追ってきている。
ラウルが歯を食いしばる。
「もう作戦が始まっている……っ!
ミナさんの居場所が割れかけている!」
ミナは震えながらも前を向く。
「い、今から聖域の森へ向かえば……逃げられますか……?」
「逃げ切れるかは分からない。
だがここにいるよりは確実に安全だ」
カイルはそう断言し、ミナの手を取って走り出す。
しかし――
街の外門が見えた瞬間。
外から大量の兵が駆けてくるのが見えた。
ギルド兵、教会兵、騎兵、冒険者――
街ごと包囲網が形成されている。
カイルの表情が一瞬だけ険しくなる。
「……想定以上だ。
街を丸ごと“ミナ捕獲作戦”に使ってきたか」
リアが唇を噛む。
「どうすれば……!」
ミナは震える声で言う。
「みんな……わたしたちを追って……死んでしまうかもしれない……!
そんなの、嫌です……!」
ラウルも焦りを隠せない。
「彼らを巻き込みたくないなら……抜け道しかありません。
街の下――“地下水路”です」
カイルは即決した。
「行くぞ。森へ逃げる。
“追われる旅”から“先へ進む旅”へ変える」
敵は包囲を完成させたつもりだ。
だが包囲とは、突破されるためにある。
ミナは涙を一度だけ拭き、強い声を出す。
「はい!!!」
4人は地下水路へと走り出す。
追われるだけでは終わらない。
逃げるだけの旅は、ここで終わり。
ここからは――
未来を掴みに行く旅だ。
——第25話へ続く。




