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第23話 王都の焦燥と、埋まらない穴

場所は王都・王城。


巨大な絨毯に覆われた謁見の間には、

怒号と焦りが渦巻いていた。


王が怒鳴る。


「報告しろ! なぜ遠征部が全滅した!

 “鍵”の奪取は成功したのではなかったのか!!」


対面するのは勇者パーティの残りのメンバー。


勇者レオン、賢者ティナ、僧侶グレア。

だが三人とも重傷者のような顔をしていた。


賢者ティナが震える声で報告する。


「……“鍵の少女”のそばに……

 信じられないほどの戦力がいます……

 わたしたちの想定を、何段階も超えた……」


勇者レオンが机を叩きながら叫ぶ。


「鍵の少女の護衛――“魔術師カイル”だ!!

 俺たちが追放した、あいつだ!!」


廷臣たちがざわつく。


「追放? 勇者パーティが? 理由は?」

「彼は無能だったのでは?」

「なぜ“無能”が国家級の妨害を?」


レオンの怒りは爆発寸前だった。


「無能だと思ってた!! いや、思い込んでいた!!

 だがあいつは……最初からずっと……

 俺たちが理解できていないだけで、本物の化け物だった!!!」


悔しさと後悔が滲む叫び。


僧侶グレアは泣きながらうつむく。


「私……気づいてたんです……

 カイルさんだけが、皆を守ろうとして動いていたって……

 でも……勇者様の意見に逆らえなくて……!」


ティナは顔を覆って嗚咽し、声を絞る。


「今さら謝っても遅い……でも……戻ってきてほしい……

 このままじゃ……鍵の少女も王国も……滅ぶ……!」


静寂。

王城が凍りつく。


王が小さく呟く。


「……なぜ追放した?」


レオンは声を震わせて、吐き捨てるように答えた。


「理由なんてなかった。

 あいつが強すぎて、優秀すぎて……

 “自分が一番じゃなくなるのが怖かった”……それだけだ……!」


壁に拳を叩きつけ、血が飛ぶ。


「俺の臆病のせいで……世界が終わる……!!」


しかし王の判断は冷酷だった。


「後悔はどうでもいい。

 “呼び戻せ”。命令だ」


レオンは震える。


「……呼び戻すなんて……どうやって……?

 俺たちは……あいつに“いらない”と言ったんだぞ……!!」


王は激怒し、声を荒げる。


「国のためだ! 命じろ!

 土下座してでも戻って来させろ!!」


勇者は静かに崩れ落ちた。


「……あいつが……戻ってくれるなら……」


その姿は、かつての英雄の威厳の欠片もなかった。


その頃、王都の別の部屋。


王国最高戦力を統括する元帥は、

影の情報局からの報告書を静かに読んでいた。


・暗殺者部隊 全滅

・戦闘痕跡 ほぼなし

・魂の完全消失

・敵の正体:魔術師カイル(元勇者パーティ)


元帥は震える手で報告書を閉じ、立ち上がる。


「国王に伝えろ。

 ミナ・シュメール奪取計画は危険すぎる」


部下が驚きの声を上げる。


「しかし王命は絶対……!」


元帥は叫ぶ。


「王命より重要なものがある!!

 “カイル・アークライト”を敵に回すということだ!!!」


沈黙の後、言葉が落ちる。


「……あの男を敵に回すくらいなら、

 いっそ魔王軍と戦った方がマシだ」


だが王は──

もう後戻りできない状態だった。


「勇者を出撃させろ!

 魔術師カイルを探し出し、連れ戻せ!!!

 世界の命運はあいつの力にかかっている!!」


王の叫びが響く。


しかしそれは願望ではなく、妄執。


“戻ってきてほしい”のではない。

“都合が良くなるよう利用したい”だけ。


王都はまだ理解していない。


もう遅いのだということを。


対比:その頃


王都の混乱と絶望の裏で――


カイルたちは隠し宿で鍋を囲んでいた。


「にんじん入れすぎじゃないですか!?」

「野菜が多い方が体にはいい」

「うわぁ……健康感……!」


笑い声と湯気が満ちている。


王城は悲鳴。

カイルたちは笑顔。


この対比こそ、ざまぁの最高の燃料。


崩壊は確実に近づいている。


——第24話へ続く。

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