第220話 突入――一点集中
合図は来なかった。
代わりに、距離が一気に詰まった。
霧の切れ目、正面。再編された隊が動く。数は九。多くない。だが、歩幅が揃い、間合いが一定。無駄がない。中央に一人、左右に三、後衛に二。突入点は一つ。時間を切って来た。
カイルは前へ。背中を見せない。
ミナの合図は低く、短い。配置が閉じる。
中央が来る。二歩。三歩。刃が上がる前に、カイルが入る。肩で当て、重心を外す。倒さない。立たせない。左右が同時に踏み込む。狙いは脚。カイルは体を沈め、間合いを消す。肘。腹。呼吸が止まる。半拍で体を回し、もう一人の足を払う。地面。
後衛が投擲。角度が鋭い。カイルは止まらない。前進で距離を潰し、腕を叩き落とす。武器が散る。残る一人が合図を切る。退く合図だ。
だが、まだ終わらない。左右の三が入れ替わり、第二動作。連携は切れていない。ミナの揺らぎが走る。踏み込みが揃わない。半拍。十分だ。カイルは一点へ。合図役の前。拳。腹。息が止まる。合図が消える。
一気に崩れる。
撤退。
追わない。
時間は短い。
数十秒。
倒れた者は起き上がり、歩いて戻る。誰も追わない。実例が残る。それで足りる。
静寂。
境界の外で、誰かが深く息を吐く音。評価は終わった。
ミナが言う。「これで?」。
カイルは首を振る。「切り替えた」。攻めは終わり、防ぎは続く。相手は学んだ。無駄は省かれ、勝てない形は捨てられた。だから、次は来ない。
村へ戻る。報告は一行。「一点集中、停止」。帳簿が閉じられる。肩の力が抜ける。だが、線は引いたままだ。
夜、境界杭の前。
今日は拳を使った。
明日は使わないかもしれない。
それでも同じだ。
越えなければ止めない。
越えたら止める。
戦いは終わった。
この形では。
ーー第221話に続く




