第22話 奇襲の街影、揺らがない絆
その日の朝、隠し宿の主人が小声で告げてきた。
「街中の見回りがさらに厳しくなったぞ。
ミナって娘の顔写真が増えてる。教会員まで動き始めた」
緊張が走った。
つまり――
これまで潜伏を続けられたのは“奇跡”に近かったということだ。
リアは剣を握り、慎重に言う。
「……ここに長くいるのは危険かもしれません」
カイルも同意する。
「様子を見つつ、別の拠点に移る準備だ。
夕刻に荷物をまとめる」
ミナは不安そうにしながらも、頷いた。
「はい……二人と一緒なら、どこでも……」
夕刻。荷物をまとめ、裏路地へ出た瞬間だった。
――風が止まる。
視界の端の闇が揺れた。
カイルの身体が反射で動く。
「危ない、伏せろ!」
リアとミナをかばうように押し倒すと
次の瞬間、頭上を巨大な刃状の魔力弾が通過し、石畳を縦に裂いた。
ミナが息を呑む。
「い、今の……人が撃てる威力じゃ……!」
屋根の上から複数の気配が落ちてくる。
黒装束・教会騎兵・ギルドの重装戦士・貴族派遣の魔術師――
正体も所属もてんでバラバラな“寄せ集めの精鋭”。
だが、たった一つだけ共通している。
狙いはミナ。
先頭に立つ魔術師が叫ぶ。
「鍵の少女ミナ・シュメール! 抵抗すれば殺す!!」
ミナの足が震えそうになる。
だが――踏みとどまった。
今度は逃げない。
リアは剣を抜き、ミナの前に立つ。
「ミナさんは殺させない。絶対に」
ミナはリアの背中に守られながら杖を握る。
「こ、怖いです……でも……わたしも戦います……!」
カイルは一歩後ろへ下がり、全体を俯瞰する位置に立つ。
「全員聞こえるように言う。
攻撃の中心は俺。リアは迎撃、ミナは援護――
“いつもどおりだ”」
その一言で、ミナの震えが止まった。
リアが叫ぶ。
「了解!!」
ミナも声を張る。
「援護がんばります!!」
3人の陣形が一瞬で定まった。
敵が一斉に突撃してくる。
最前列は重装戦士、後方は教会魔術師が詠唱、
屋根の上から暗殺者が狙う――
完璧な奇襲陣。
だが。
カイルは冷静に言う。
「――ミナ」
「はいっ!《加速強化》リアさん!!」
リアの身体に光が走り、
突撃してきた重装戦士の間合いに一瞬で滑り込む。
「突破します!!」
剣撃が重戦士の装甲を叩き割り、敵陣を切り裂く。
背後から魔術の砲撃が迫る。
ミナは泣きそうな声を張り上げながら詠唱する。
「リアさん! 後ろです!!《衝撃反転》!」
リアの背中に光の膜――
後方からの魔術が逆方向へ反射され、撃った魔術師を貫いた。
敵陣が混乱する。
そして――
カイルが歩み出る。
「全員、俺を無視してる時点で詰めが甘い」
無詠唱で効果範囲を展開。
「《魔力断絶領域》」
足元から広がった蒼光が
敵の魔術・身体強化・結界・隠蔽――すべてを強制解除。
重装戦士は力を失い膝をつき、
暗殺者は屋根の上で動けなくなり、
魔術師は魔力を奪われ叫び声をあげる。
視界に映る敵全員――無防備。
「リア、まとめろ」
「任せてください!」
リアが中心に飛び込み、
崩れ落ちた敵を一掃するように剣を振り抜く。
空気を裂くような風圧と、地を響かすような衝撃。
屋根から落ちてきた最後の敵が剣先に触れた瞬間――
カイルが指を鳴らす。
「《拘束の鎖》」
光の鎖が敵全員を地面に縫い付ける。
誰一人、立ち上がれない。
沈黙。
ミナは震える息を整えながら、
ぽつりと呟いた。
「……勝てた……! 3人で……ちゃんと勝てたんだ……!」
リアは誇らしげにミナの肩を抱き寄せた。
「ええ。ミナさんの援護があったからです」
ミナは目を潤ませながら、
カイルの方を見る。
「カイルさん……わたしたち……強いパーティになれてますか……?」
「当たり前だ。
“守りたい相手”がいるパーティは強い」
ミナは顔を覆って泣き笑いする。
「うぅ……好きになっちゃいます……!」
リア「ちょっと待ってくださいミナさん!! それは色々誤解を生みます!!」
ミナ「ご、誤解じゃないです!!」
カイル「俺に処理できない会話はやめろ」
リア&ミナ「そういうところです!!」
暗闇の中でも笑い声が生まれた。
戦いは激しい。敵は強い。
けれどこの3人は確かに揺るがない。
倒すだけでは終わらせない。
守って、支え合って、生き抜く。
その強さこそが――
これから大陸の運命を変えていく。
——第23話へ続く。




