第218話 沈静――連戦の余波
包囲が解けた翌朝、村は静かだった。
静かすぎる、という種類の静けさだ。
見張りの交代は滞りなく、境界の外に目立った動きはない。だが、誰も油断していない。連戦の後に来るのは、反撃ではなく空白だ。空白は判断を鈍らせる。だから、動かない。
ミナは帳簿を閉じ、集会を短く切り上げる。共有するのは三点だけ。外の動き、物資、休息の割り振り。反省会はしない。反省は個別にやる。全体でやると、疲労が広がる。
負傷者はいない。だが、疲労はある。護衛役の肩、見聞役の足、連絡役の喉。致命ではない。続けられる範囲だ。リアが見回りの間隔を伸ばし、セリアが短時間の仮眠を組み込む。回復は計画的に入れる。
昼、外組が動かない代わりに、点検が入る。柵、杭、足跡。変化は少ない。だが、森の縁に残る踏み跡が示す。様子見に切り替わった。戦いは、形を変えた。
午後、単独の使いが来る。武器はない。境界の外で止まり、紙を掲げる。「通行の再開」。条件は曖昧だ。ミナは紙を受け取らない。返事は一言。「状況次第」。理由は言わない。状況は、こちらが作る。
夕刻、カイルは境界杭に手を置く。今日は拳を使っていない。だが、最も重要な仕事をしている。立っているだけだ。立つ位置、視線、距離。動作が、判断になる。
ミナが隣に来る。「静かな方が、怖いですね」。カイルは頷く。「だから、回す」。疲労を回し、判断を回し、役割を回す。止まらないために。
夜、焚き火の前。短い会話が交わされる。誰も戦いの話をしない。明日の作業、食事、交代。日常を戻す。それが、勝ち負けより重い。
遠くで、鳥が鳴く。
近くで、風が動く。
今日は、来ない。
だが、線は引かれたままだ。
越えなければ止めない。
越えたら止める。
戦いは減った。
消えたわけじゃない。
次に来る形を、待つだけだ。
ーー第219話に続く




