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第214話 単独強者――線を越える者

昼過ぎ、森の縁に一人だけ立つ影があった。数も合図もない。装備は軽く、姿勢が崩れない。一騎で来た。カイルは境界の内側で止まり、距離を測る。相手は越えない。視線だけが交差する。


男が口を開く。「条件は理解している。だが、力は条件を超える」。一歩、踏み出す。越えた。

カイルが動く。


初動は速い。男の踏み込みに合わせ、半身で受け、肩を当てる。だが崩れない。強い。次の瞬間、刃が来る。角度が鋭い。カイルは体を沈め、間合いを消す。肘で止め、手首を叩く。刃が落ちる。男は距離を取り、拳に切り替える。


拳が来る。重い。カイルは受けない。外す。足を払う。男は踏ん張る。踏ん張れた。質が高い。だが、踏ん張った瞬間、重心が止まる。カイルは体を入れ替え、腹へ。呼吸が止まる。男は膝をつくが、倒れない。


男が笑う。「噂通りだ」。次の瞬間、全力。突進。カイルは前に出る。真正面。避けない。衝突。肩と肩。衝撃が走る。カイルは一歩だけ踏み込み、相手の中心を外す。足が流れる。男が崩れる。


終わりではない。男は立ち上がろうとする。カイルは距離を詰め、立たせない。関節を極め、地面へ。呼吸が整うまで待つ。追撃はない。止めただけだ。


男は仰向けで空を見上げ、短く言う。「ここは、通らない」。カイルは何も答えない。答えは、今の動作だ。男は自力で起き上がり、境界の外へ戻る。振り返らない。


周囲は静かだ。見物も介入もない。一騎での評価は終わった。


ミナが近づく。「大丈夫?」。カイルは頷く。「線は守れた」。それだけで十分だ。帳簿には一行だけ残る。「単独強者一、停止」。


夕刻、外からの気配はない。攻める理由が、もう残っていない。数も質も試した。最後は力で来て、止まった。理解が共有された。


境界杭は立っている。今日も越えられた。だが、すべて止まった。

次は、戦わない形で来るかもしれない。

それでも、線は同じだ。


ーー第215話に続く

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