第212話 一点突破――決戦級の短期衝突
合図は、角笛だった。
隠す気のない音。位置も正面。ここで決めるという宣言だ。
陣は一つ。数は二十を切る。だが、動きが揃っている。中央に三、左右に各六、後方に支援。前後左右、同時。突破点は一箇所。逃げ道を潰し、力で押し切る布陣。消耗を終わらせるための賭けだ。
カイルは前に出る。中央。背中を見せない。
「来い」。声は低い。
左右が動く前に、中央が来た。三。距離が詰まる。最初の一人を受け、体を入れ替える。肘。腹。呼吸が止まる。次の瞬間、二人目。刃が来る前に、間合いを消す。手首を叩き落とし、地面へ。三人目は遅れる。半拍。足を払う。中央が崩れた。
左右が一斉に踏み込む。今だ。
ミナの合図が低く走る。足元が揺れ、踏み込みが揃わない。カイルは右へ。二人を一直線に止め、体を回して三人目を地に伏せさせる。左が来る前に、ラウルが道を塞ぐ。リアが距離を切る。セリアの眠りが一瞬、落ちる。十分だ。
後方の支援が動く。投擲。狙いは膝。カイルは半身で受け、前進を止めない。止まらない。距離を潰し、腕を叩き落とす。武器が散る。残る者が引く。逃げ道は一つ。戻す。
時間は短い。
呼吸が整う前に終わる。
最後に残ったのは、合図役。動かない。視線だけが強い。カイルは近づかない。距離の外で止まる。越えさせない。合図役は理解する。ここでは、踏み込めば止まる。撤退。背中を向ける前に一言。「今日は、負けだ」。カイルは答えない。
霧が晴れる。街道は静かだ。倒れた者は起き上がり、歩いて戻る。追撃はない。実例が残る。それで十分だ。
村へ戻る。報告は短い。「一点突破、停止」。ミナは帳簿を閉じる。息を吐く。怖さは残る。だが、崩れていない。「終わりですか?」。カイルは首を振る。「形が変わる」。
境界杭に手を置く。今日の戦いは重かった。だが、線は保たれた。
次は、戦わない戦いかもしれない。
それでも、越えなければ止めない。越えたら止める。
夜は静かだった。
静けさの理由が、また一つ変わった。
ーー第213話に続く




