第210話 波状――止まらない投入
夜明けは来ない。
来る前に、次が来た。
最初の小隊が引いた直後、間を置かずに第二波。数は八。動きは粗いが、間合いが近い。消耗を狙う配置だ。カイルは前へ出ない。半歩下がり、距離を作る。踏み込んだ一人を受け、体を入れ替える。崩れた体が後続の進路を塞ぐ。連鎖で止まる。短い。息を整える間もなく、終わる。
第三波は遠距離。矢と投擲。狙いは足。カイルは動かない。盾役が前に出る前に、角度を変える。矢は地に刺さり、投擲は届かない。ミナの合図で足元が揺れ、踏み出しが乱れる。半拍。カイルが出る。最短で距離を潰し、腕を叩き落とす。武器が散る。追わない。戻す。
第四波は同時。左右から四、正面から三。時間差なし。消耗を重ねるつもりだ。カイルは中央を捨て、右へ。二人を一息で止め、体を回して三人目を地に伏せさせる。左の圧が来る前に、ラウルが道を塞ぐ。リアが距離を切る。セリアの眠りが一瞬、落ちる。完全ではない。だが、止めるには十分。
第五波は来ない。
代わりに、待ちが来る。
森の縁、動かない影。数は見えない。こちらも動かない。消耗戦は、焦った側が負ける。カイルは座らない。立ったまま、呼吸を整える。疲労はある。だが、動作は落ちていない。線は同じだ。
十分な時間の後、影が一歩踏み出す。偵察。越えない。戻る。評価だ。次は、質を混ぜてくる。
夕刻、最後の波。五。中央に一人、合図役。左右に二。背後に一。連携は静か。最短で止めに来た。カイルは前へ。合図役を見ない。左右の間合いを消す。二人を同時に崩し、体を回して背後を地に伏せさせる。残る二人が距離を取る。逃げ道は一つ。戻す。
短時間。
死者なし。
追撃なし。
日が昇る。霧が切れる。街道は静かだ。報告は一行。「波状五、停止」。ミナは帳簿を閉じる。指が重い。だが、判断は揺れていない。
カイルは境界杭に手を置く。消耗戦は始まった。だが、消耗するのは同じ。こちらだけが減るわけじゃない。線は、まだ重い。
ーー第211話に続く




