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第209話 正面衝突――指揮官の一手

夜明け直前、霧が低く垂れた。森の縁、街道の正面。隠す気のない陣が現れる。数は十二。装備は統一、間合いは一定。中央に一人、動かない。視線がこちらを測っている。指揮官だ。


合図は不要だった。前列が同時に踏み出す。横ではなく、真正面。逃げ道を潰し、力で押す構え。カイルは一歩前へ。背中を見せない。最短距離で中心を切る。


矢が来る。二射。カイルは半身で受け、前進を止めない。三歩で間合い。盾が上がる前に、肘。盾が落ち、持ち主が崩れる。右から刃。体を沈め、肩で弾く。左から体当たり。重心を見て足を払う。倒さない。立たせない。


ミナの合図が低く響く。足元に揺らぎ。踏み込みが揃わない。半拍。カイルはその半拍で前列を崩し切る。後列が距離を取るが、指揮官が合図を切る。左右から回り込み。包囲。


カイルは止まらない。包囲の中心を捨て、一点へ突く。指揮官の前。距離が詰まる。刃が来る前に、拳。腹。呼吸が止まる。だが倒れない。指揮官は踏みとどまり、短剣を抜く。上段。狙いは首。


カイルは体を入れ替え、手首を叩き落とす。刃が地に落ちる。次の瞬間、肩を当て、地面へ。制圧。声は出ない。合図が消える。


連携が切れた。左右の圧が弱まる。ラウルが側面を押さえ、リアが距離を切る。セリアの眠りが一瞬、落ちる。完全ではない。だが十分。前列が崩れ、後列が引く。逃げ道は一つ。戻すための道。


撤退。

追わない。

短時間。


指揮官は地に伏したまま、低く言う。「ここは……通らない」。

カイルは答えない。答えは、今の動作だ。


霧が晴れる頃、街道は静かになった。報告は短い。「正面十二、指揮官一、停止」。ミナは帳簿を閉じる。手は震えていない。判断が体に入った。


カイルは境界杭を見る。今日は、正面から勝ちに来た相手を止めた。次は、もっと重い。だが、線は変わらない。


ーー第210話に続く

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