第208話 夜戦――切り替わる質
二度目の夜襲は、音がなかった。
草も鳴らさず、呼吸も浅い。数は少ない。三。だが、気配が濃い。カイルは歩みを止め、地面の硬さを足裏で確かめる。来る角度が読めない。質が一段上がった。
最初に動いたのは左。視界の端。刃が来る前に、カイルは体を沈める。肩が擦れ、火花が散る。反撃は肘。鳩尾。息が止まり、影が崩れる。倒れない。支えを失って座り込むだけだ。
次は同時。正面と背後。狙いは連携の要。カイルは正面へ踏み込み、あえて背を見せる。背後の一撃を誘う。刃が空を切った瞬間、体を回し、手首を絡め取る。捻られ、武器が落ちる。正面の一人が踏み込むが、ミナの低い合図で足が止まる。半拍。カイルはその半拍で前を崩し、後ろを地に伏せさせる。
三人目は引いた。賢い判断だ。だが、撤退路に一歩踏み出した瞬間、ラウルが立つ。道は一本。追わない。戻すための道だけ残す。影は歯噛みし、去った。
静寂。
だが終わらない。
今度は数。五。距離を保ち、囲む。連携は慎重、合図は目配せ。殺しに来ていない。止められるかを測っている。カイルは中央に立つ。逃げ道を一つだけ空ける。動かない。相手が焦れるのを待つ。
一人が踏み出す。越えた。
カイルが出る。
一直線。
踏み込み、体当たり、重心崩し。
次の一人、肘。
三人目、足払い。
四人目、間合い潰し。
五人目は来ない。来られない。
短時間。
呼吸が整う前に終わる。
夜半、最後の気配。今度は戦わない。遠くから視線だけが置かれる。動かない。こちらも動かない。十分な時間の後、視線は消えた。評価は終わった。
村へ戻る。報告は簡潔。「夜襲三回、質上昇、停止」。ミナは帳簿を閉じる。震えはない。慣れたわけじゃない。判断が定着しただけだ。
カイルは境界杭に手を置く。今日は何度も越えられた。だが、すべて止まった。
「次は?」とミナが聞く。
カイルは答える。「本気の一手」。
夜は静かだ。
だが、静けさの重さが違う。
次は、数でも試験でもない。
勝ちに来る。
ーー第209話に続く




