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第206話 連携圧――踏み越えた瞬間

異変は、外組の帰路で起きた。

安全点まであと半刻という位置。森道が不自然に静かで、鳥の声がない。護衛役が合図を出すより先に、カイルは立ち止まった。気配が重なりすぎている。単独でも偶発でもない。


次の瞬間、道の前後が塞がれた。数は七。装備はまちまちだが、距離の取り方と視線の動かし方が揃っている。連携してくる相手だ。先頭の男が声をかける。「条件は理解している。だから話に来た」。嘘だ。話す距離を越えている。


ミナが一歩下がり、連絡役が合図を切る。外組は自然に半円を描く。越えない。だが、越えさせない位置だ。男は続ける。「小口でいい。今すぐ回せ」。支払い袋を投げる。軽い。条件外。見聞役が紙を出す前に、後方の一人が踏み込んだ。線を越えた。


カイルが出た。

速い。言葉はない。

踏み込み一歩で間合いを潰し、肘を落とす。骨ではなく、呼吸を止める位置。男が崩れる。次の瞬間、左から刃。カイルは体を捻り、手首を叩き落とす。刃が地に転がる。右から体当たり。重心を見て肩を入れ替え、投げない。立たせないだけだ。


三人目が後退し、合図を切る。四人が一斉に来る。ここでミナが動く。声は低く、短い。「止める」。地面に淡い揺らぎが走り、踏み込みが半拍遅れる。カイルはその半拍を使う。前列二人を一直線に崩し、背後の一人の足を払う。残る一人は距離を取るが、ラウルが回り込む。逃げ道だけ残す。追わない。


最後に残った男が叫ぶ。「やりすぎだ!」

カイルは初めて言葉を返す。「越えた」。

それだけで十分だった。


戦闘は短い。死者は出ない。追撃もしない。地面に伏した者は自力で立てる程度に止めてある。動けないが、戻れる。見物はいない。だが、この距離で、この時間で、これだけ揃った動作が見えたなら、評価は一つだ。


男たちは撤退した。背中を向ける前、先頭の男が振り返る。「誰の差し金だと思う?」

カイルは答えない。

答えは、ここにある。


外組は安全点へ戻る。呼吸を整え、装備を確認し、報告をまとめる。ミナの手は震えていない。「越境七、停止七、追撃なし」。それだけだ。内側から即座に返る。「了解。記録更新」。


夜、村。集会は短い。カイルが言う。「連携圧が来た」。ざわめきは起きない。皆、予想していた。ミナが続ける。「でも、線は守れた」。誰かが頷く。誰かが息を吐く。恐怖はあるが、崩れていない。


カイルは境界杭の前に立つ。今日の戦いは見せるためではない。止めるためだ。だが、結果として示された。ここでは、数も連携も、越えた瞬間に無力化される。それが共有されれば、次は形が変わる。


ミナが隣で言う。「また来ますね」。

カイルは短く答えた。「来る」。

「でも?」

「同じやり方は、もう通らない」。


夜は静かだった。

だが、外の動きは一段階上がった。


ーー第206話に続く

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