第202話 破りに来る者――最初の試金石
条件が噂として回り始めた三日後、最初の破りが来た。場所は市の外れ、時間は人の出入りが鈍る夕刻。外組は観測に徹していたが、相手は最初からこちらを見ていた。男は二人。言葉は丁寧、要求は曖昧。「急ぎで量を回せ」「後で払う」。条件の四項目のうち、二つを同時に外す提案だった。
見聞役は紙を出す。量は小口、支払い即時、連絡は複線、越境は停止。男は笑い、紙を押し戻す。「今は例外だ」。例外は、条件を壊す合言葉だ。見聞役は席を立つ。交渉は終わり。追わない。ここまでは想定内だった。
問題はその直後だ。男の一人が距離を詰め、荷に触れた。越えた。護衛役が出る。半歩で間合いを潰し、手首を抑え、重心を外す。倒さない。地面に伏せさせ、道を示す。「戻れ」。連絡役が周囲に視線を配る。見物人がいる。実例の場だ。
相方が声を荒げる。「横暴だ」。見聞役は短く返す。「条件外」。理由は言わない。言えば議論になる。議論は例外を増やす。男は唾を吐き、下がる。追わない。停止だけで終わる。
数分後、第三者が近づく。小口商人だ。条件を確認し、成立する。支払いは即時。量は少ない。だが、場の空気が確定する。破った者は得をせず、守った者は静かに得る。これが最初の試金石だった。
外組は安全点で報告する。「条件破り一件、越境停止。追撃なし。直後に小口成立」。内側から返る。「了解。記録更新」。判断は共有された。余計な評価は付かない。
帰路、連絡役が言う。「もっと強く来る」。護衛役は頷く。「次は数か、肩書き」。見聞役は地図を見る。「場所を変える」。場を選ぶのも条件の一部だ。
夜、村。ミナは帳簿に追記する。破りの種類、対応、結果。カイルは一行読む。「例外は作らない」。ミナは頷く。「作らない」。簡単な結論ほど、守るのが難しい。だから、最初に守る。
外では噂が一段落ち着く。「破っても得がない」。それ以上でも以下でもない。だが、これで終わりではない。破りは形を変える。次は、正当な顔で来る。
ーー第203話へ続く




