第201話 拡散――条件が噂になる
市から戻って二日目、変化は静かに現れた。直接の取引量は増えていない。だが、同じ条件文面が別の場で使われているという報せが入る。外組の連絡役が持ち帰ったのは、手書きで写された四項目だった。量は小口、支払い即時、連絡は複線、越境は停止。言い回しが違うだけで、骨子は同じ。真似だ。
最初に真似たのは周辺の小さな共同体だった。彼らは強くない。だから条件を軽くし、責任を重くしないやり方を探していた。外組が置いた条件は、強さを誇らない。そこが刺さった。噂は速いが、形は遅い。形になった噂は、消えにくい。
村では短い確認が行われた。独占しない。抗議しない。訂正もしない。ミナは帳簿に一行だけ書く。「第三者採用」。カイルは頷く。「奪われるもんじゃない」。条件は共有されていい。線は各自が引けばいい。
外では摩擦も起きる。まとめ役の仲介が、真似た条件に不満を示し、「責任が散る」と噛みつく。だが、買い手は静かだ。小口で即時。トラブルが起きにくい。声の大きさと得は一致しない。結果が、空気を変える。
外組は観測に回る。助言はしない。質問されたら、事実だけ答える。「成立した」「越境は止めた」「追っていない」。それで十分だ。模倣は改変を伴う。全部が同じにはならない。だが、方向は揃う。
夕刻、連絡が入る。別の市で、条件を巡る小競り合い。越境が一度起き、停止。追撃なし。見物人が多く、誰も得をしない形で終わったという。外組は評価する。「実例が残った」。条件は紙より、現場で強い。
村に戻ると、ミナは新しい欄を作る。「外部採用事例」。数は三。多くない。だが、十分だ。カイルは境界杭を見て言う。「線は増やせないが、線の考え方は増える」。ミナは頷く。「それでいい」。
夜、焚き火の前で短い会話。外組が言う。「次は、条件を破る者が出る」。カイルは答える。「出る」。ミナが続ける。「止める」。言葉は短い。役割は明確だ。
外では、条件が噂として独り歩きし始めている。名前はつかない。旗も立たない。だが、越えなければ止めないという考え方が、点で広がる。広がりすぎれば薄まる。薄まれば、また現場で試される。それでいい。続けられる速度で、続ける。
ーー第202話に続く




