第20話 隠れて、笑って、生き抜く
ミナの行方不明告知が街に貼られた翌日。
ギルド・教会・警備隊・冒険者――
街中の勢力が一斉にミナを探し始めていた。
潜伏宿の外から聞こえる怒号と足音が
ここが安全ではないことを物語っていた。
リアは窓から外を慎重に見張っている。
「……完全に包囲されていますね。
誰が敵で誰が味方か分からない以上、外出は極力控えた方がいいです」
ミナは肩をすくめながら、少し寂しそうに笑う。
「わ、わたしって……そんなに大騒ぎされる存在なんですか……?」
「悪い意味じゃない。危険なほど重要視されてる」
俺が答えると、ミナは難しい顔になる。
「うーん……わたしには実感がないから不思議な気分です……
生徒会で“なくてもいい人”みたいな扱いだったのに……」
リアはミナの手を取って優しく言い返す。
「“必要とされる人間”は、どんな場所に行っても必要とされます。
ミナさんがそれを掴めていなかっただけです」
ミナはじんわり笑った。
街に出歩けないため、生活は宿の中で完結する。
ただ――3人とも意外とこういう日常が嫌じゃなかった。
◆カイル → 料理と修理
◆リア → 稽古と室内トレーニング
◆ミナ → 魔法の制御練習
生活は静かだが、外の気配は常に緊張している。
ミナは窓の外を見て、ぽつりと言う。
「外は怖いけど……ここは安心できます……
だって二人がいてくれるから」
リアは照れて笑いながらも、強く頷く。
「私たちもミナさんがいるから頑張れていますよ」
ミナは胸を押さえながら、
幸せが溢れそうな顔をした。
「……生きててよかった……」
カイルは言葉を選ばず自然に言う。
「生きてる方がいいに決まってる。
生きていれば、いいことが増える」
ミナは涙がこぼれそうになりながら
無理やり笑顔でごまかす。
「ほ、ほんと……チームで旅してよかったです……!」
午後になると、宿の老人がこっそり食材を運んでくれた。
「外に出られねぇんだろ。せめて食うもんくらいはな。
代金は後でまとめていい」
ミナは何度も頭を下げて喜んだ。
「う、嬉しいです……人の優しさが……しみます……」
老人は照れ隠しのように咳払いして帰っていった。
ミナは袋を抱えたままぴょこぴょこ跳ねる。
「今日は作る作る〜! わたしも料理やってみたいです!」
リアが慌てる。
「ミナさん、跳ねないで! フードずれてます!」
ミナ「えっ!? た、大変!」
リア「あっ! そこ! カイルさん見ないで! 見ないようにしてください!」
カイル「俺は何も見てない」
リア「声が無表情なんですけど!?」
ミナ「す、すみません!!」
騒がしいけど温かい空気が満ちていた。
敵に追われている状況だというのに、笑い声が絶えない。
潜伏生活は窮屈で危険だけど――
ただの逃避ではなく、ちゃんと“生きている日々”だった。
夜。
街にはまだ緊張が漂っている。
ミナは窓越しに夜空を見ながら囁く。
「追われるのは怖いです。
でも……今は逃げたいからじゃなくて、
二人と一緒に旅したいから生き延びたいです」
リアは微笑む。
「“誰かと一緒にいたいから生きたい”って、すごく素敵な願いですよ」
ミナの目の奥に、もうあの“絶望の色”はなかった。
強くなろうとしている目だった。
その夜、3人は灯りを消して眠りについた。
だが深い眠りの中で、カイルの胸にひとつだけ確信が芽生える。
——このまま潜伏を続ければ、必ず敵が本格的に動き出す。
ミナを守るためには
潜伏ではなく“行動”が必要になる瞬間が来る。
そして同時期――
王都ではすでに異変が始まっていた。
勇者パーティの一人の叫びが宮廷の廊下に響く。
「カイルを追放したのは間違いだった……!!
もう手遅れになる!! カイルを連れ戻せ!!!」
王都はまだ知らない。
戻ってきてなどと言われても、彼は二度と戻らない。
——第21話へ続く。




