第198話 外組の初仕事――測られる距離
外組は三人。見聞役が前、連絡役が中央、護衛役が後ろ。隊形は緩く、目立たない速度で街道を進む。目的は交易の下見と噂の確認。仕事は派手さよりも戻せる情報だ。
昼過ぎ、最初の異変が起きる。街道脇の小橋で荷車が止まっていた。車輪の軸が歪み、進めない。御者は焦っているが、助けを求めるほど切羽詰まってはいない。見聞役は距離を保ち、声をかける。「通行の妨げになる」。御者は頷き、助力を頼む。ここで判断が入る。介入は最小。修理の助言だけを渡し、力は貸さない。代わりに、周囲を確認する。
護衛役が気づく。森側に二つの影。数は少ない。武器は見えない。連絡役が合図を出す。外組は橋を挟んで立ち位置を変え、越境を待つ。影は近づかない。様子見だ。御者の修理が進むにつれ、影が一歩前に出る。ここで越えたら止める。だが、越えない。影は声を投げる。「手伝ってやる」。見聞役は短く返す。「不要」。事実だけだ。
次の瞬間、荷車の荷縄が切れた。故意ではない。だが、拾い集める隙が生まれる。影の一人が踏み出した。線を越えた。護衛役が出る。短い踏み込み、体を当て、重心を崩す。倒さない。地面に伏せさせ、道を示す。「戻れ」。影は舌打ちし、引く。相方も下がる。追わない。御者は青ざめ、謝る。外組は答えない。作業が終わったら去る。
修理が済み、荷車は動く。御者が礼を言い、少量の干し肉を差し出す。受け取らない。代わりに聞く。「この辺で最近、同じ手口は?」。御者は首を振る。「噂だけ」。噂は確認できた。十分だ。
夕刻、外組は安全点で連絡を飛ばす。内容は簡潔。「小橋で測り。越境一件、停止。追撃なし。噂は薄い」。内側から返信が来る。「了解。記録に反映」。判断は共有された。
帰路、連絡役が言う。「助けなかったのは冷たいか」。見聞役は答える。「助言はした。越えなかった」。護衛役は短く付け足す。「止めたのは一度だけ」。それで足りる。
夜、村へ戻る。ミナが帳簿に書き込む。場所、人数、越境の有無、停止方法。感想は欄外に一行だけ。「距離は守れた」。カイルは頷く。「初仕事としては十分」。派手な成果はない。だが、持ち帰れた判断がある。
外は静かだ。測りは続く。だが、越えなければ止めない。越えたら止める。外でも同じ。線は、持ち運べる。
ーー第199話へ続く




