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第197話 次章への導線――移動か、定着か

朝、村は二つの動きに分かれた。畑へ向かう者と、荷をまとめる者。どちらも自然で、どちらも否定されない。立ち位置が固まった結果、次の選択が見えるようになっただけだ。


外へ出る理由は明確だった。周辺の情報が欲しい、交易路を確かめたい、家族を探したい。残る理由も同じくらい明確だ。線がある、判断が共有されている、日々が回る。カイルは集会で短く言う。「どちらも正解だ。戻る道は残す」。条件は一つだけ。越えない線を、外でも守る。


ミナは出発組の名簿を整え、役割を割り振る。見聞役、連絡役、護衛役。数は少ない。派手さはない。だが、続く配置だ。リアは地図を更新し、死角と安全点を記す。セリアは眠りの札を分け、ラウルは合図の取り決めを確認する。準備は静かで、速い。


昼前、最初の小隊が出る。カイルは同行しない。理由は簡単だ。ここに重心を残す。外で起きる出来事は、線を持ち帰れる者が見ればいい。ミナは一瞬迷い、残る側を選んだ。「記録が要る」。カイルは頷く。それで役割が決まる。


午後、外から短い報せが届く。街道は平穏、噂は落ち着き、取引は慎重。過剰な期待も、過剰な警戒もない。関係が薄くなるのは、悪いことじゃない。管理できる距離だ。ミナは帳簿に事実だけを書き足す。感想は書かない。


夕刻、残る者たちで作業が続く。柵の補修、井戸の点検、見張りの交代。日常が積み上がる。カイルは境界杭を見て言う。「動かない強さが、今は要る」。ミナは頷く。「動く準備も、同時に」。二つは矛盾しない。


夜、焚き火の前で短い話し合い。次の一週間の目標は三つ。物資の均衡、情報の往復、判断の共有。誰も反対しない。同意は声を上げない形で成立する。静かな合意だ。


深夜、外組から二通目の報せ。周辺村の一つが、線の作り方を尋ねてきたという。助言は最小限にする。図も言葉も渡さない。原則だけを返す。「越えなければ止めない」。それで足りる。


夜明け前、ミナは空を見上げる。怖さは消えない。だが、判断は軽くなった。カイルが言う。「次章は長い」。ミナは答える。「でも、迷わない」。ここから先は、勝ち負けじゃない。続けられるかどうかだ。


村は動き出す。外へ向かう道と、ここに留まる道。両方が同時に進む。線は変わらない。越えなければ、止めない。それだけで、十分だった。


ーー第198話へ続く

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