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第195話 切り捨ての逆流

崩れ始めたのは、現場だった。王国の各地で「慎重対応」が伝達されると、懲罰隊は動けなくなった。出動すれば失敗、出動しなければ怠慢。どちらに転んでも評価が落ちる。現場は理解していた。上は守ってくれない。その空気が、報告書の文言を変えた。「命令の曖昧さ」「支援の欠如」「責任の所在不明」。一行ずつ、逃げ道が塞がれていく。


上層では、さらに露骨だった。再評価団の議事録が流出する。制圧失敗を“現場判断”に押し付けた痕跡、資材配分を削った決裁、救援要請の却下。誰が切ったかが、紙の上で確定した。貴族派は沈黙し、実務派は距離を取り、矛先は自然と一点に集まる。「模範」を掲げ、切り捨てを正当化した部署だ。


世論は遅れて燃えた。「守ると言って守らなかった」「殺さなかった村が、秩序を示した」。比較は残酷だ。英雄はいないが、嘘が露出した。教会は火消しに回るが、祈りは数字を消せない。帝国は静かに笑う。敵が自滅する時、介入は不要だ。


一方、村は動かない。声明も出さない。勝利宣言もしない。ただ、線を守り、事実を共有し、来る者に同じ答えを返す。ミナは集会で短く言う。「私たちは、何も変えていない」。それが最も痛い。変わらないことが、相手の矛盾を照らし続ける。


夜、密使が一人だけ訪れる。名も出さない。条件も出さない。確認だけだ。「線は維持されるか」。カイルは頷く。「越えなければ」。それで終わり。持ち帰るものはない。だが、結論は十分だった。


王都では、ついに処分が下る。部署の解体、責任者の更迭、方針の撤回。名目は再編。実態は完全な切り捨て。切り捨てで成り立っていた正義が、切り捨て返された瞬間だ。逃げ道はない。誰も助けない。皆、知っているからだ。


夜明け。境界杭はそのまま立っている。倒されもせず、飾られもしない。ミナは息を吐く。「終わった?」。カイルは首を横に振る。「区切りがついただけ」。勝者はいない。だが、敗者は確定した。


ーー第196話へ続く

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