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第192話 一点突破――刺客の質が変わる

夜明け前、村は異様に静かだった。虫の音が止み、風もない。見張りが異変を報告する前に、カイルはもう立っていた。来る。しかも一人。数で圧す段階は終わった。次は、失敗しないための手。


刺客は境界線の外に立ったまま動かない。武器は短剣一本。装備は軽く、呼吸が一定。逃げ道も退路も考えていない立ち方だ。ミナが小さく息を呑む。カイルは合図だけ出し、他を下げる。「越えさせる」。線が試される。


一歩。刺客が踏み出した瞬間、空気が切り替わる。速い。だが、迷いがない分、読みやすい。カイルは半拍遅らせて前に出る。刃が閃く前に間合いを潰し、肘を落とす。短剣が弾かれ、次の瞬間には地面。終わり――ではない。刺客は即座に転がり、第二動作に移る。質が違う。


カイルは追わない。逃げ道を一つ残す。刺客はそこへ誘われる形で跳ぶ。次の瞬間、肩を極められ、関節が鳴る。悲鳴は出ない。訓練されている。だが訓練は、現場の選択に勝てない。数息で制圧。殺さない。止める。


拘束の最中、刺客が短く言う。「守りは強い。だが、人は増える」。脅しでも忠告でもない事実。カイルは答えない。言葉は必要ない。刺客は境界線の外へ戻され、歩いて去った。振り返らない。回収は来ない。切り捨ての構造は、まだ続いている。


夜が明け、村は一段静かになった。試しは減る。代わりに、見られている時間が増える。ミナは帳簿を閉じ、「質が上がるなら、私たちも上げる」と言う。リアが頷き、見張りの交代と死角を更新。セリアは短い笑みで「眠らせ方を変える」。ラウルは肩を鳴らす。「次は、看板が要るな」。


看板――ここは越えると止められる。言葉ではなく、実例で。今日の一戦が、それだ。外では噂が形を変える。「無双する村」ではない。「踏み込むと必ず止まる村」。それは、攻め手にとって最も嫌な評価だった。


夕方、ミナは境界杭の前で立ち止まる。怖さは消えない。だが、怖さは判断の材料になった。カイルが横に立つ。「次は、正面から一人じゃ来ない」。ミナは頷く。「でも、線は同じ」。選択は、もう共有されている。


ーー第193話へ続く

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