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第191話 選択の代償――圧の増幅

三者が去った翌日から、圧は露骨になった。街道の通行量が減り、取引の口約束が次々と反故にされ、噂が先回りする。「あの村は面倒だ」「関わると睨まれる」。誰が流しているかは問題じゃない。同時に起きていることが、答えだった。


昼、倉庫前で小競り合いが起きる。物資の配分を巡る言い争いに、外から来た二人組が割って入った。「公平にしろ」「管理が甘い」。正論に聞こえるが、言い回しが不自然に揃っている。カイルは距離を詰め、声を落とす。「名を言え」。一瞬の逡巡。逃げる。それが答え。追わない。止めるだけ。二人は境界線の外で押さえられ、武器を捨てて引き返した。血は流れない。だが、試しは失敗した。


夕刻、見張りが報告する。森側で三度、同じ間合いから投石。狙いは柵ではなく、注意を散らすこと。カイルは一度だけ出た。踏み込み、音の方向へ最短で移動し、投石役を無力化する。拳は振るわない。肩を極め、地に伏せさせ、道を示す。「戻れ」。従った。一点集中の無双は、短く、冷たい。


夜、ミナは帳簿を見直しながら気づく。物資は足りているのに、足りない気分だけが増幅している。圧は数ではなく、心理だ。ミナは集会で言う。「噂は事実で消す。使った分、補った分を毎晩共有する」。拍子抜けするほど地味だが、効く。数字は嘘をつかない。


その直後、最大の圧が来た。三者の“次の一手”が同時に重なる。帝国は交易の優遇を撤回、教会は救済団の一部を引き上げ、王国は周辺村に“慎重勧告”。孤立を演出する布陣だ。だが、想定外が起きる。周辺村から少量の物資が自発的に届く。理由は一つ。「切られなかった」。秩序より、記憶が勝った。


夜半、最後の試しが来る。境界線直前での挑発。松明を掲げ、名も告げずに罵声。カイルは動かない。ミナが前に出る。「越えてない。だから止めない」。数拍の沈黙。挑発者は苛立ち、自ら一歩踏み出した。その瞬間、カイルが出る。速い。止める。押さえる。戻す。線が働いた。


静まり返る夜。ミナは小さく笑う。「今日は、怒らなかった」。カイルは答える。「怒る必要がなかった」。圧は増えた。だが、選択は増えている。明日も試しは来る。それでも、折れない。


ーー第192話へ続く

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