第188話 余波――選ぶ者と、逃げる者
朝。
霧が、
ゆっくりと村を包んでいた。
戦いの跡は、
もうない。
だが――
空気だけが、変わっていた。
◆最初の訪問者
村の見張りが、
小さく合図を送る。
街道の向こうから、
人影が近づいてくる。
一人、
また一人。
武器は持たない。
荷は少ない。
顔には、
共通したものがあった。
――迷いと疲労。
◆難民
先頭の女が、
深く頭を下げた。
「……王国軍に……
従え、と言われました……」
その声は、
擦り切れている。
**「……拒めば……
西の集落みたいに……」**
後ろの子どもが、
母の裾を掴む。
村人たちが、
息を呑む。
援助派の男が、
思わず言う。
「……入れよう……
放っておけない……」
拒否派の若者が、
苦しそうに唸る。
「……でも……
全員は……」
◆ミナの葛藤
ミナは、
言葉を失っていた。
(……助けたい……
でも……
守れる……?)
助けるほど、
目立つ。
目立つほど、
次が来る。
その現実を、
もう知っている。
◆カイルの判断
カイルが、
前へ出る。
「全員は無理だ。」
はっきりした声。
ざわめきが起こる。
**「だが、
条件付きで受け入れる。」**
条件。
その言葉に、
希望と恐怖が混じる。
◆選別ではなく、選択
カイルは、
続けた。
**「ここは、
隠れ場所じゃねぇ。」**
**「守る意思がある者だけ、
残れる。」**
女が、
震える声で問う。
「……何を……
すれば……?」
「線を守る。」
**「越えない。
奪わない。
復讐しない。」**
沈黙。
**「それでも、
ここにいるか?」**
一瞬の間。
それぞれが、
自分の胸に問いかける。
◆選ぶ者
女は、
ゆっくりと頷いた。
**「……逃げるだけの場所は、
もう嫌です……」**
後ろの男も、
拳を握る。
「……俺も……
守る側になりたい……」
全員ではない。
二人、
三人。
踵を返し、
別の道を選ぶ者もいる。
◆逃げる者
若い男が、
吐き捨てるように言った。
「……結局、
強いやつが決めるんだ……」
そのまま、
背を向ける。
ミナは、
何も言えなかった。
◆夜の軋轢
受け入れた夜。
焚き火の周りで、
小さな衝突が起きる。
「……俺たちの分が……」
「……あの人たち……
信用できるのか……?」
不安は、
すぐに摩擦になる。
◆ミナの行動
ミナは、
立ち上がった。
「……分ける……」
全員が、
彼女を見る。
**「……足りないなら……
減らす……
私も……」**
援助派の男が、
慌てる。
「……子どもに……
そんな……」
「……選んだから……」
小さな声。
だが、
逃げていない。
◆カイルとミナ
夜更け。
ミナが、
焚き火の残り火を見つめる。
**「……私……
全部は……
守れない……」**
カイルは、
静かに言った。
「それでいい。」
**「守れる範囲を、
本気で守れ。」**
ミナは、
深く息を吸う。
(……逃げない……
でも……
背負いすぎない……)
◆外の動き(伏線)
同時刻。
王都では、
“制圧失敗”の余波が広がる。
帝国では、
密使が動き始める。
教会では、
“救済団”の名が挙がる。
黒星会では――
アズリエが、
小さく笑った。
「……人が集まり始めた……
次は……
“中から壊す”……」
◆締め
朝。
村の境界線に、
新しい木杭が一本立てられた。
数が増えたのではない。
線が、共有された。
ミナは、
それを見て思う。
(……選ぶって……
重い……
でも……
歩いてる……)
カイルが、
空を見上げる。
**「次は、
外からじゃねぇ。」**
「中だ。」
──第189話へ続く




