第187話 敗北の責任――正義が裂ける
王都。
朝の鐘が鳴る前から、
城内は騒然としていた。
◆敗北報告
重厚な会議室。
将軍、宰相、枢密官――
顔を揃えた重役たちの前で、
ローデリックが膝をつく。
**「……懲罰隊、
制圧に失敗しました。」**
ざわめき。
「死者は?」
「……ゼロです。」
一瞬の静寂。
そして――
怒号。
◆“模範的制圧”の崩壊
将軍が、
机を叩く。
**「ゼロだと!?
では何をしてきた!!」**
ローデリックは、
歯を噛みしめながら答える。
**「……民間人を
一人も殺さず、
兵も殺されず……
完全に……
制圧されました。」**
宰相が、
ゆっくりと目を細める。
**「つまり……
“正義の軍”が、
武装民兵に……
完敗した、と。」**
その言葉は、
刃より鋭かった。
◆責任の押し付け合い
枢密官が、
即座に言い放つ。
「現場判断の誤りだ。」
別の貴族が続く。
「情報が甘かった。」
**「そもそも、
あの地域は
“放置区域”だったはずだ。」**
言葉が飛び交い、
責任は霧散する。
◆ローデリックの証言
ローデリックは、
顔を上げた。
「……違います。」
空気が凍る。
**「彼らは、
無秩序ではありませんでした。」**
**「境界を引き、
越境のみを止め、
報復を禁じていた。」**
**「我々がやったのは、
“秩序回復”ではなく……
その破壊です。」**
怒気が、
一斉に向けられる。
「言い訳か!」
**「反逆者を
正当化する気か!」**
◆決定的な一言
ローデリックは、
静かに言った。
**「西の集落は、
守られませんでした。」**
沈黙。
**「あの村は、
それを知っていた。」**
宰相が、
低く問う。
**「……貴様は、
どちらの味方だ?」**
ローデリックは、
迷わず答えた。
「……王国です。」
**「だからこそ、
言います。」**
**「このままでは、
“正義”が
国を壊します。」**
◆処分
長い沈黙の後。
「ローデリック。」
宰相が、
冷たく告げる。
**「貴様を、
前線指揮から外す。」**
事実上の左遷。
**「同時に、
当該村は
“武力制圧対象”から
除外する。」**
ざわめき。
「……名目上、な。」
完全な勝利ではない。
だが――
剣は引かれた。
◆噂の拡散
王都の外。
「懲罰隊が負けた」
「殺されなかった」
「村の方が秩序だった」
噂は、
尾ひれを付けて広がる。
◆教会の反応
白亜の聖堂。
枢機卿が、
静かに言う。
**「国家が
“善”を独占できなくなりましたね。」**
補佐官が、
不安げに問う。
「……介入、
しますか?」
「いいえ。」
**「今は、
“比較”させましょう。」**
◆帝国の判断
影の男が、
記録を閉じる。
**「……武力、
倫理、
統制……
すべてが揃った。」**
**「次は交渉だ。」**
◆村の夜
村では、
静かな夜が訪れていた。
怪我人は、
軽傷のみ。
誰も、
勝利を誇らない。
ミナが、
小さく言う。
**「……怒って……
良かった……」**
カイルは、
焚き火を見つめながら答える。
**「怒りは、剣より重い時がある。」**
**「今日、一つだけ壊した。」**
**「“正義は一つ”って
幻想をな。」**
◆次回予告
──第188話




