第185話 対話か、断絶か――最後通告
正午。
村の入口に、
一人だけ騎士が立っていた。
鎧は脱ぎ、
剣も鞘に収められている。
だが――
背後の丘には、
見えるように配置された兵影があった。
“対話”の顔をした、
圧力だった。
◆最後通告
騎士は、
静かに名乗った。
「王国特使、ローデリック。」
声は丁寧。
だが、
一切の温度がない。
彼は、
封書を差し出した。
「王国からの、正式通達です。」
リアが受け取り、
読み上げる。
・当該村を「暫定保護区域」に指定
・武装の全面登録
・防衛権の王国一元化
・違反時、懲罰対象とする
空気が、
一段冷える。
援助派の男が、
苦しそうに言う。
「……保護……なんだよな……?」
ローデリックは、
頷いた。
**「ええ。
“安全”を約束します。」**
拒否派の若者が、
低く言う。
「……代わりに?」
ローデリックは、
一切迷わず答えた。
「選択権です。」
◆静かな怒り
ミナの胸が、
強く鳴った。
(……また……
“安全”と引き換えに……)
だが、
感情だけで動かない。
ミナは、
一歩前へ出た。
**「……質問……
いいですか……?」**
ローデリックは、
わずかに驚いたが、頷いた。
**「西の集落……
守りましたか……?」**
ローデリックは、
一瞬だけ視線を逸らし――
答えた。
**「秩序を、
回復しました。」**
その言葉で、
全てが伝わった。
◆カイル、口を開く
カイルは、
これまで黙っていた。
だが、
ここで初めて、前に出る。
「交渉じゃねぇな。」
ローデリックは、
冷静に返す。
**「国家は、
全ての村と
交渉しません。」**
**「なら、
答えは一つだ。」**
◆断絶
カイルは、
はっきりと言った。
「拒否する。」
ざわめき。
ローデリックは、
表情を変えない。
「理解しました。」
そして――
静かに告げた。
**「明朝までに
意思が変わらなければ、
次は“執行”です。」**
踵を返し、
騎士は去る。
丘の兵影は、
そのまま。
◆村の動揺
沈黙のあと、
声が噴き出す。
「……無理だ……
国家相手に……」
「……従えば……
生きられる……」
「……でも……
西の集落は……」
恐怖と理性が、
真っ向からぶつかる。
◆ミナの核心
ミナは、
震えながら、
しかしはっきり言った。
**「……従ったら……
次は……
私たちが……
“切る側”になる……」**
その言葉が、
胸を抉る。
**「……私は……
それだけは……
嫌……」**
未定派の老人が、
深く頷く。
「……正しい……
生き残り方は……
一つじゃない……」
◆カイルの覚悟
夜。
焚き火の前。
カイルは、
ミナにだけ告げる。
**「明日は、
話し合いじゃ終わらねぇ。」**
ミナは、
目を逸らさず答える。
**「……それでも……
選ぶ……」**
カイルは、
短く頷いた。
**「なら、
守り切る。」**
◆前夜
丘の向こう。
王国軍の幕舎で、
ローデリックが報告していた。
「……拒否しました。」
上官が、
淡々と命じる。
**「では、
“模範的制圧”を。」**
その言葉は、
静かだった。
だが――
最大の過ちでもあった。
──第186話へ続く




