第184話 正義の代償――切り捨てられる現場
昼下がり。
行商が、
いつもより重い足取りで村へ入ってきた。
顔色が悪い。
目が、どこか焦点を失っている。
◆噂ではない、現実
焚き火の前。
行商は、
水を一口飲み――
震える声で語り出した。
「……西の集落……
懲罰隊が入った……」
空気が、
一気に張りつめる。
「盗賊と通じた疑い、だと……」
援助派の男が、
顔を強張らせる。
「……証拠は……?」
行商は、
首を振った。
**「……いらない、って……
“疑いがある”だけで……」**
◆“正義”の手順
行商の話は、
淡々としていた。
住民の武装解除
境界杭の撤去
指定された数名の拘束
抵抗した者への制圧
そして――
「……倉庫、
接収された……
冬前なのに……」
未定派の老人が、
目を閉じる。
「……生き残れん……」
◆切り捨てられた理由
拒否派の若者が、
低い声で問う。
「……なんで……
あの集落なんだ……?」
行商は、
答えた。
「……“従わなかった”から……」
沈黙。
**「……ここより、
弱かった……
それだけ……」**
その言葉が、
村に重く落ちる。
◆村の動揺
広場に、
怒りと恐怖が混ざる。
「……従っても……
切られる……?」
「……正義って……
誰の……?」
援助派の男が、
歯を噛みしめる。
「……あいつら……
正しい顔で……」
◆ミナの怒り
ミナは、
黙って聞いていた。
拳が、
白くなるほど握られている。
(……理屈で……
人を……
切る……)
その胸に、
初めて――
はっきりとした怒りが湧いた。
「……ひどい……」
声は小さい。
だが、
確かな温度があった。
**「……それは……
守る、じゃない……」**
リアが、
静かに言う。
「……秩序の維持、
という名の……
切り捨て……」
セリアが、
歯を食いしばる。
「……一番、
救いがないやり方……」
◆カイルの判断
カイルは、
村人たちを見回した。
恐怖。
怒り。
迷い。
すべてが、
混ざっている。
「見たな。」
静かな声。
**「これが、
国家の“正義”だ。」**
拒否派の若者が、
叫ぶ。
「……じゃあ……
どうすりゃいい!!」
カイルは、
即答しない。
だが――
ミナが、前に出た。
◆ミナの宣言
ミナは、
震えながらも、
はっきり言った。
**「……だから……
私たちは……
間違えない……」**
視線が集まる。
**「……力があっても……
切らない……
弱いからって……
奪わない……」**
援助派の男が、
声を震わせる。
「……それで……
守れるのか……?」
ミナは、
一瞬だけ目を閉じ――
答えた。
**「……守れない時も……
ある……」**
ざわめき。
**「……でも……
切らない……
選び続ける……」**
その言葉は、
綺麗ではない。
強くもない。
だが――
嘘がなかった。
◆選択の共有
未定派の老人が、
ゆっくり頷く。
「……それで……
後悔しても……
自分の後悔じゃ……」
援助派の男も、
拳を握りしめる。
「……切られるより……
選びたい……」
拒否派の若者が、
深く息を吐く。
「……なら……
最後まで……
付き合う……」
◆外の反応(伏線)
その夜。
王国の一部では、
「想定外の自治拡散」が報告される。
教会では、
「秩序外の倫理」が議題に上る。
帝国では、
影の男が短く記す。
「……比較対象、
成立……」
黒星会では――
アズリエが、
珍しく眉を寄せた。
「……怒りを、
飲み込んだか……」
◆静かな決意
焚き火の前。
ミナが、
小さく呟く。
「……怒ってる……」
カイルは、
隣で答えた。
「それでいい。」
**「怒りは、
選ぶ理由になる。」**
ミナは、
炎を見つめる。
(……次は……
逃げない……
黙らない……)
──第185話へ続く




