第183話 正義の名の下に――懲罰隊接近
朝霧。
村の見張りが、
遠くの街道に規則正しい足並みを見つけた。
鎧。
旗。
隊列。
盗賊ではない。
帝国でもない。
――王国だ。
◆懲罰隊
先頭に立つ男は、
白と青の外套を羽織っていた。
「王国懲罰隊・副官、エドガー。」
声は大きく、
威圧を隠さない。
**「貴村において、
違法な私刑および武力行使が確認された。」**
村人たちが、
ざわめく。
援助派の男が、
思わず前に出る。
「……侵入者が……
物資を……」
エドガーは、
冷たく遮る。
**「国家の許可なき武力は、
すべて違法だ。」**
拒否派の若者が、
歯を噛みしめる。
「……じゃあ……
守られない村は……
どうすりゃいい……?」
エドガーは、
一拍も置かずに答えた。
**「それを守るのが、
国家だ。」**
その言葉に、
空気が張りつめる。
◆要求
エドガーは、
書状を掲げた。
「よって、以下を命ずる。」
武装解除
境界杭の撤去
武力行使者の引き渡し
三つ目で、
村の空気が凍った。
ミナの指が、
わずかに震える。
(……カイルを……
差し出せ……って……)
◆カイル、前へ
カイルは、
静かに一歩出た。
剣は抜かない。
拳も握らない。
ただ、
逃げない。
「拒否する。」
エドガーの眉が、
初めて動いた。
「国家命令だ。」
「村のルールだ。」
短い。
だが、
完全な衝突。
◆正義の論理
エドガーは、
声を張り上げる。
**「私刑を許せば、
秩序は崩れる!」**
カイルは、
静かに返す。
**「秩序が来なかったから、
線を引いた。」**
エドガーが、
苛立ちを隠さなくなる。
**「ならば、
国家に従え!」**
カイルは、
一歩も引かない。
**「従えば、
同じことが起きる。」**
◆ミナの言葉
ミナが、
勇気を振り絞って前に出た。
**「……私たちは……
裁いてない……」**
エドガーが、
睨みつける。
「黙れ。」
だが、
ミナは続けた。
**「……越えたら……
止める……
それだけ……」**
**「奪わない……
追わない……
でも……
越境は許さない……」**
エドガーが、
鼻で笑う。
「それが私刑だ。」
◆ざまぁ(理屈)
その時、
リアが一歩出た。
「王国法典・第十二章。」
懲罰隊が、
ざわつく。
**「“国家の保護が及ばない地域において、
住民が生命を守るために設けた
暫定防衛措置は、
違法としない。”」**
エドガーの顔色が、
変わる。
**「ただし――
“国家が即応できる場合”に限る。」**
リアは、
淡々と続けた。
**「三日前の侵入時、
王国の即応は
“ゼロ”でした。」**
沈黙。
◆追い打ち
ラウルが、
低く笑う。
「ちなみに、
侵入者は生きてる。」
セリアが、
肩をすくめる。
「治療もして、
追い返したわ。」
**「これ、
私刑?」**
エドガーは、
言葉を失う。
◆決着
長い沈黙の後、
エドガーは歯を食いしばった。
**「……今回の件は……
“調査継続”とする。」**
事実上の撤退。
**「だが、
次は違う。」**
カイルは、
静かに答えた。
**「次は、
国家が来る前に
線を越えさせない。」**
◆余韻
懲罰隊が去る。
村に、
深い息が戻る。
援助派の男が、
小さく言う。
「……勝った……?」
未定派の老人が、
首を振る。
「……耐えた……じゃ……」
◆ミナの独白
ミナは、
胸に手を当てる。
(……正義って……
便利な顔……
でも……
選ばなきゃ……
同じになる……)
カイルが、
小さく言った。
**「これが、
一番厄介な敵だ。」**
──第184話へ続く




