第182話 選ばれなかった者たち
夜明け前。
森の奥、
月明かりも届かない場所で――
三人は倒れていた。
足を引きずり、
互いに支え合いながら、
ようやく辿り着いた“集合地点”。
だが――
そこには誰もいなかった。
◆切り捨て
一人が、
荒い息で笑う。
「……はは……
さすがに……
迎えは……
あるよな……?」
返事はない。
別の一人が、
周囲を見回す。
「……おい……
合図……
出したよな……?」
沈黙。
そして――
最後の一人が、
地面に落ちていた小さな札を見つけた。
黒い印。
簡素な記号。
“撤収”。
それだけ。
◆理解
男は、
力なく笑った。
「……ああ……
そういうことか……」
助けは来ない。
報復もない。
回収もない。
“使えなかった”
それだけで、
切り捨てられた。
◆逆恨み
足を折られた男が、
地面を殴る。
「……あの村……
あいつらのせいで……!」
怒りは、
安全な方向へ向かう。
命令した者ではなく、
守った者へ。
「……潰してやる……
絶対に……」
だが――
立てない。
歩けない。
何もできない。
◆世界の現実
森の別の場所。
黒衣の人物が、
遠巻きに三人を見下ろしていた。
近づかない。
声もかけない。
ただ、
淡々と記録する。
「……排除済み……
価値喪失……」
それだけ。
影は、
何事もなかったように去った。
◆村では
朝。
村は、
普段通りに動いていた。
畑を耕す。
見張りを立てる。
木杭を確認する。
誰も、
昨夜のことを大声で語らない。
ミナが、
倉庫の前で立ち止まる。
(……もう……
戻ってこない……)
それは、
安心ではない。
線が機能した証明だった。
◆ミナとカイル
ミナが、
小さく尋ねる。
「……後悔……
してない……?」
カイルは、
即答しない。
少しだけ間を置いて――
「後悔はする。」
ミナが、
目を見開く。
**「だが……
越えさせたら……
もっと後悔する。」**
ミナは、
ゆっくり頷いた。
(……どっちも……
重い……
だから……
選ぶ……)
◆波及
その日、
“噂”が広がった。
あの村は、線を引いた
踏み越えれば、必ず返される
だが、無闇に殺さない
交渉は、まだ可能
商人たちは、
慎重に距離を測る。
盗賊たちは、
避けるようになる。
だが――
別の種類の者たちが、
興味を示し始めた。
◆黒星会
アズリエは、
静かに呟く。
「……選ばれなかった者は……
必ず……
“証明”を欲しがる……」
配下が問う。
「利用しますか?」
アズリエは、
首を横に振った。
**「……観察する……
次は……
“正義”を名乗る者が来る……」**
◆次の影
同時刻。
王国の一部で、
小さな会合が開かれていた。
「……無法ではない……
だが、国家でもない……」
「……なら……
“秩序”を示す必要がある……」
誰かが、
静かに言う。
「……懲罰隊を……」
◆締め
夕暮れ。
ミナは、
村の境界線に立つ。
木杭は、
静かにそこにある。
(……線は……
人を選ぶ……
でも……
それでいい……)
カイルが、
背後から言った。
**「次は……
“正しい顔”で来る。」**
ミナは、
深く息を吸う。
**「……なら……
間違えないように……
選ぶ……」**
夜が、
再び降りる。
──第183話へ続く




