第181話 報い――線を踏み越えた者
深夜。
村の入口に打たれた木杭が、
月明かりに照らされていた。
誰もいない。
風だけが、
乾いた音を立てて吹き抜ける。
――そのはずだった。
◆越境
ギリッ。
木杭が、
意図的に踏み倒された。
音は小さい。
だが、
“偶然”ではない。
見張り役が、
即座に合図を送る。
松明が二つ、
静かに掲げられた。
◆侵入者
三人。
黒い布で顔を隠し、
武器は短剣のみ。
狙いは明確だった。
――倉庫。
――物資。
そして何より、
**「ルールが本物かどうか」**の確認。
一人が、
小声で笑う。
「……何も起きねぇじゃねぇか。」
次の瞬間――
◆カイル、出る
影が、
音もなく背後に立っていた。
侵入者が振り向く前に、
拳が落ちる。
一人目、
即座に沈黙。
地面に伏し、
息だけが漏れる。
残る二人が、
慌てて距離を取る。
「……な、なんだ……!?」
月明かりの中、
カイルの顔が見えた。
表情は、
驚くほど静かだった。
「線、越えたな。」
◆短い戦闘
二人が、
同時に襲いかかる。
だが――
遅い。
一人の手首を折り、
短剣を落とさせる。
そのまま、
身体ごと地面へ叩きつける。
最後の一人が、
逃げようと背を向けた瞬間――
足が払われた。
地面に転がり、
喉に靴底が乗る。
◆裁き
男は、
震えながら叫ぶ。
「……ま、待て……!
ただの偵察だ……!」
カイルは、
力を込めない。
だが――
逃げ場も、言い訳も、与えない。
「偵察でも、侵入だ。」
男が、
必死に訴える。
「……殺さないって……
言ってたろ……!」
カイルは、
首を横に振る。
「殺さねぇ。」
安堵が浮かぶ。
――その瞬間。
**「代わりに、
“戻れない”ようにする。」**
ゴキッ。
足首が、
正確に砕かれた。
悲鳴は、
途中で途切れる。
◆ざまぁ
カイルは、
三人を並べ、
村の境界線の外へ放り出した。
最後に、
低く言う。
「伝えろ。」
**「越えたら、
必ず出る。」**
**「次は、
もっと戻れなくなる。」**
侵入者たちは、
這うように闇へ消えた。
◆村の反応
物陰から、
村人たちが姿を現す。
誰も歓声を上げない。
誰も恐怖に叫ばない。
ただ、
納得した顔をしていた。
拒否派の若者が、
小さく呟く。
「……ああ……
本物だ……」
援助派の男が、
深く息を吐く。
「……守られたんじゃない……
“守る仕組み”が……
機能した……」
未定派の老人が、
静かに頷く。
「……線は……
生き物じゃ……」
◆ミナの視点
ミナは、
少し離れた場所で見ていた。
怖かった。
震えた。
でも――
目を逸らさなかった。
(……罰じゃない……
約束だった……)
カイルが、
こちらを見た。
「怖いか。」
ミナは、
正直に答える。
**「……怖い……
でも……
間違ってない……」**
カイルは、
短く頷いた。
「それでいい。」
◆外の世界への波紋(確定)
その夜。
帝国では、
評価が更新される。
《越境対応:即時》
《抑止力:実証》
王国では、
「力を持つ自治体」として再分類。
教会では、
「倫理線を持つ武力」として警戒。
黒星会では――
アズリエが、はっきりと笑った。
「……いい……
“罰”を理解している……」
◆静かな結末
夜が、
再び静かになる。
木杭は、
立て直された。
前より、
少し深く。
ミナは、
それを見つめながら思う。
(……これが……
守るってこと……
甘くない……
でも……
逃げてもない……)
──第182話へ続く




