第180話 越えてはならない線――報復の連鎖
夜半。
風が、
村の外から吹き込んできた。
それは冷たく、
湿った匂いを含んでいる。
血の匂いではない。
人の意志が動いた匂いだった。
◆兆し
見張り役が、
息を切らして駆け込んでくる。
「……村道の分かれ道に……
松明が……三本……」
ラウルが眉を上げる。
「……合図か。」
セリアが歯を食いしばる。
「数じゃない。
“見ている”って意味ね。」
リアが冷静に補足する。
「直接攻撃ではありません。
心理的圧迫……
“次は本気だ”という予告です。」
ミナの胸が、
ぎゅっと締め付けられる。
(……これが……
連鎖……)
◆村に広がる不安
広場。
声が、
ひそひそと重なり始める。
「……やっぱり……
やり返したから……」
「……次は……
家族かもしれない……」
援助派の男が、
拳を握る。
「……武器を……
もっと……」
拒否派の若者が、
低く言う。
「……先に出るしか……」
“守る”が、
“攻める”へ傾き始める。
その瞬間――
ミナが前へ出た。
◆ミナの叫び
声は大きくない。
だが――
広場に、はっきり届いた。
**「……それ以上は……
だめ……」**
ざわめきが止まる。
ミナは、
自分の震えを隠さない。
**「……戦えば……
楽になる……
でも……
それは……
“次”を呼ぶ……」**
援助派の男が、
苦しそうに言う。
「……じゃあ……
どうすれば……」
ミナは、
一瞬だけ目を閉じ――
言った。
**「……線を……
引こう……」**
◆越えてはならない線
ミナは、
言葉を重ねる。
**「……私たちは……
守る……
でも……
奪わない……」**
拒否派の若者が問う。
「……やられたら……?」
**「……止める……
“それ以上”を……」**
セリアが、
静かに理解する。
「……報復を
“個人の判断”にしない……」
リアが続ける。
「……ルール化……
衝動の遮断……」
ラウルが、
低く笑う。
「……やっと
“組織”になり始めたな……」
◆カイルの判断
全員の視線が、
カイルへ集まる。
止めるか。
押すか。
カイルは、
ゆっくり頷いた。
「それでいい。」
静かな声。
**「俺が出るのは、
“線を越えた時”だけだ。」**
村人たちが、
息を呑む。
**「越えなきゃ、
戦わねぇ。」**
その言葉が、
村に“枠”を与えた。
◆線の可視化
その夜。
村の入口に、
木杭が打たれた。
派手な防壁ではない。
見せつける城壁でもない。
ただ――
境界を示す印。
未定派の老人が、
静かに言う。
「……越えたら……
意味が変わる……」
◆外の反応
森の奥。
松明の影が、
一つ消える。
誰かが、
評価を更新する。
帝国
《報復連鎖:抑制》
《統制判断:成立》
王国
《武力衝突:回避可能性》
《交渉余地:拡大》
教会
《倫理線の形成》
《介入余地:減少》
黒星会
アズリエが、
目を細める。
「……面白い……
壊さずに……
線を引くか……」
◆静かな夜
焚き火の前。
ミナが、
小さく息を吐く。
「……怖い……
でも……
止められた……」
カイルは、
隣で答える。
**「止めたんじゃねぇ。
“選んだ”んだ。」**
ミナは、
その言葉を胸に刻む。
(……これが……
守るってこと……)
──第181話へ続く




