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第18話 潜伏の宿

暗殺者を退けたあと、俺たちは裏路地を抜けて街の住宅街へ向かった。


ラウルが小声で案内する。


「こちらに……教会とは無関係な、秘密の宿があります。

 一般客は利用しません」


案内された小さな宿は、表向きは普通の古民家だが

裏口から入ると、冒険者向けの隠し客室に通じていた。


宿主の老人は俺たちを見るとすぐに状況を察したらしく、


「事情は聞かん。だが“守りたい相手がいる顔”だ。

 数日は滞在していい。目立たないようにするんだぞ」


とだけ言って鍵を渡してくれた。


部屋に入ると、ようやく緊張が解けた。


ミナは布団の端に腰を下ろし、

疲れが一気に溢れたのか胸元を押さえる。


「こ、ここまで来られてよかった……」


リアも鎧を外し、深く息を吐いた。


「街中まで敵が入り込んでいるとは予想外でしたね……

 でも全員無事で何よりです」


俺は周囲の結界を確認する。


「監視や追跡の魔法はない。

 ここならしばらく休める」


ミナが顔を上げる。


「す、少し休めるんですか……?」


「休むべきだ。戦い続けても判断力が鈍る」


ミナは小さく微笑んだ。


「……安心したら……一気に疲れてきました……」


その声は弱々しいが、どこか幸せそうでもあった。


荷物を整理していると、ミナが恐る恐る声をかけてきた。


「あの……カイルさん。

 戦いのときのことなんですけど……」


「どの?」


「わ、わたしの魔法……ちゃんと役に立ててましたか……?」


その質問に、即答できないわけがない。


「役立ったどころじゃない。

 ミナの援護がなかったら、俺でもリアでも対応に遅れていた」


ミナはぱっと表情を明るくし、

そのまま涙腺まで決壊しそうになって慌てて顔を伏せた。


「う、うれしくて……変な気持ちになって……

 誰かの役に立ったって思ったら……胸が熱くなって……!」


リアも穏やかに笑う。


「ミナさんの強さは“誰かを活かす力”なんですね。

 魔法の才能だけじゃなく……気持ちも、とても」


ミナは照れながら両手でローブの袖を握りしめる。


「リアさん……ありがとう……

 わたし……二人のおかげで、生きている感じがします……」


リアは優しく頭を撫でた。


「ミナさんは、いなくてもいい人なんかじゃありません。

 私たちと一緒にいてください」


ミナは堪えきれずにリアに抱きついた。


「う、うぅ……リアさん……だいすき……!!」


リアは真っ赤になって受け止めながら、俺に小声で訴える。


「こ、こういうときはどうしたら……!?」


「撫でておけばいい。多分泣き止む」


「あ、はい!」


よしよしと撫でられたミナは、あっさり泣き笑いになった。


その姿を見ると、

「守ってよかった」と自然に思えた。


涙が落ち着くと、ミナは目元を拭きながらこちらを見る。


「カイルさんも……一緒に座ってください……

 わたし……ちゃんとお礼を言いたい……」


俺は少し離れた場所に腰を下ろす。


ミナは深呼吸して、震える声で言う。


「カイルさんに助けてもらわなかったら……

 今ここで笑ってないし……生きていないです……」


言葉を探しながら、小さく続ける。


「だから……

 わたし、守られてばかりじゃなくて……

 カイルさんのことも、リアさんのことも……守れる魔導師になりたい……!」


リアが思わず息を呑む。


ミナの目は涙で揺れているのに――

その奥に確かな光が宿っている。


幼いけれどまっすぐな決意。

弱さを認めたうえでの強さ。


それに応えるのは簡単だ。


「なら、強くなれるように手伝う。

 守られるだけの旅じゃなく、守り合う旅にしよう」


ミナは涙を溢れさせながら笑った。


「はいっ……!」


リアも微笑み、震える声で言う。


「……やっぱり、いいパーティですね」


その言葉のあと、三人とも自然に肩の力が抜けた。


騒がしい戦いのあとに訪れた、静かな安らぎ。


ミナはそのままリアの膝に頭を乗せて眠り落ちる。

リアはミナの髪を優しく撫でながら、小さく笑う。


「この子……本当に頑張りましたね」


「だから守る価値がある」


「……カイルさんも、ですよ」


リアはふっと優しい声で言う。


「あなたも、守られる価値のある人です」


返す言葉が少しだけ遅れてしまった。


だが、こんな夜があってもいい。


戦いは続く。

敵も追ってくる。

ざまぁの未来も近づいてくる。


けれど――


今はこの3人が、確かに“仲間”だった。


それだけで十分だった。


——第19話へ続く。

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