第176話 測られる村――二度目の夜
夜。
一度越えた夜よりも、
二度目の夜は――
重い。
村人たちは、
それを直感で理解していた。
「また何か起きる」
「今度は偶然じゃない」
そんな気配が、
皮膚に貼りつくように漂っている。
◆消えた見張りの続報
戻らなかった見張り役は、
村の外れで見つかった。
倒れているが――
生きている。
怪我は軽い。
縛られていた形跡もない。
ただ一つ、
不自然な点があった。
「……何も、覚えてない……」
リアが顔を引き締める。
「記憶の選択的遮断……
魔法でも薬でもない……
“技術”です……」
セリアが低く言う。
「試験だわ。
恐怖を与えず、
力も見せず、
“できる”ことだけを見せてる。」
ラウルが唸る。
「嫌な手口だな……
完全に上からだ。」
◆敵は「力」を見せない
見張り役は、
何度も繰り返した。
「……ただ……
声をかけられた……
“村は、
もう守られていないんだな”って……」
援助派の男が、
歯を噛みしめる。
「……昨日と同じ言葉……」
拒否派の若者が、
拳を握る。
「でも……
殴ってこない……
脅してもこない……」
未定派の老人が、
静かに言った。
「力を使わぬ者ほど、
自分の力を信じておる。」
◆村の空気が割れる
広場に、
不安が溜まり始める。
「次は、
子どもかもしれない……」
「なら、
隠れるべきだ……」
「いや……
武器を持って、
先に出るべきだ……」
声が重なり、
方向が分かれ始める。
一歩間違えれば――
分裂だ。
ミナの胸が、
強く鳴った。
(……今……
“提案”しないと……
誰かが決めてしまう……)
◆ミナの提案
ミナは、
震える足で前へ出た。
深呼吸。
**「……戦わない……
でも……
黙らない……」**
ざわめき。
援助派の男が戸惑う。
「……どういう……?」
ミナは、
言葉を選びながら続けた。
**「相手は……
私たちを……
“測ってる”……
なら……
答えを返そう……」**
拒否派の若者が問う。
「……どうやって?」
ミナは、
視線を上げた。
**「……全員で……
外に出て……
見せる……」**
沈黙。
**「……逃げないこと……
でも……
戦わないこと……
“選んでる”って……
見せる……」**
恐怖が、
確かにあった。
だが――
逃げ道ではなかった。
◆カイルの判断
全員の視線が、
カイルに集まる。
止めるのか。
命じるのか。
カイルは――
一歩、後ろに下がった。
**「決めたのは、
村だ。」**
リアが息を呑む。
セリアが小さく笑う。
「……線、守ったわね。」
ラウルが肩を鳴らす。
「俺は、
最後の最後だけ出る。」
◆二度目の夜
松明が、
村の外まで並ぶ。
武器は持つが、
構えない。
逃げ道も、
戦陣も、
見せない。
ただ――
全員が立っている。
子どもはいない。
老人もいない。
だが――
誰か一人でもない。
◆影との接触
森の縁。
影が、
一つ、前に出た。
声は落ち着いている。
「……興味深い……」
誰も動かない。
ミナが、
一歩前に出る。
**「……ここは……
守られていない……
でも……
従ってもいない……」**
影が、
しばらく黙った。
「……力を、
使わないのか?」
ミナは、
はっきり答えた。
**「……必要なら……
使う……
でも……
今は……
選んでいる……」**
沈黙。
影は、
一歩、後ろに下がった。
「……記録する……」
そして――
消えた。
◆夜明け
二度目の夜は、
何も壊さなかった。
だが――
何かが、確実に伝わった。
村人たちは、
互いの顔を見る。
恐怖はある。
不安もある。
それでも――
逃げていない。
ミナは、
静かに息を吐いた。
(……できた……
今度は……
みんなで……)
──第177話へ続く




