第175話 小さな成功――自立の芽
朝。
村に、
いつもよりゆっくりとした朝が訪れた。
鐘は鳴らない。
号令もない。
だが――
人々は自然に外へ出てきた。
◆見張り明けの空気
夜通し見張りをしていた者たちが、
焚き火の周りに集まっていた。
顔は疲れている。
目の下には隈。
肩も重そうだ。
それでも――
誰も不満を口にしない。
援助派の男が、
湯をすする。
「……正直……
逃げ出したかった……」
拒否派の若者が、
苦笑する。
「……俺もだ……」
二人は顔を見合わせ、
小さく笑った。
「……でも……
生きてるな……」
その言葉に、
周囲が静かに頷いた。
◆役割が生まれる
未定派の老人が、
地面に線を引いた。
「今夜は、
この辺りが死角になる……」
農夫が頷く。
「柵を延ばせば……
見通しが良くなるな……」
別の村人が続ける。
「交代の合図、
決めた方がいい……」
誰も命令していない。
誰も従っていない。
勝手に、役割が生まれている。
リアが小さく息を呑む。
「……自発的な構造形成……」
セリアが口角を上げる。
「面白いわね……
押し付けるより、
ずっと強い。」
◆ミナの変化
ミナは、
焚き火の横で湯を配っていた。
「ありがとう」
「助かった」
「少し休みなさい」
そんな言葉を、
何度もかけられる。
そのたびに、
ミナは少し戸惑いながらも、
笑って頷いた。
(……私……
何か……
できてる……?)
剣を振っていない。
命令もしていない。
ただ――
そこにいるだけ。
それだけで、
人が立ち直る瞬間がある。
◆カイルの評価
少し離れた場所。
カイルは、
村の様子を一通り見渡した。
「……想定より早い。」
ラウルが眉を上げる。
「何がだ?」
カイルは答える。
**「“俺がいなくても回る”感覚が、
もう芽を出してる。」**
セリアが腕を組む。
「皮肉ね。
あなたが一番強いのに、
あなたが要らなくなっていく。」
カイルは、
小さく笑った。
「それでいい。」
リアが静かに言う。
「ですが……
外の勢力は……
この変化を歓迎しません。」
カイルは頷く。
「だから、次が来る。」
◆不穏な兆し
昼過ぎ。
森の外れで、
見張り役が戻らなかった。
大騒ぎにはならない。
だが、
確実に空気が変わる。
拒否派の若者が、
顔を引き締める。
「……昨夜の見張りとは……
違う……」
援助派の男が、
武器を握る。
「……来る……
次は……
本物だ……」
ミナの胸が、
きゅっと締まる。
(……でも……
逃げない……)
◆カイルの一言
カイルが、
村の中央に立った。
声は低く、
落ち着いている。
**「慌てるな。
逃げる準備をするな。
“選ぶ準備”をしろ。」**
その言葉に、
村人たちが息を整える。
**「守るか。
隠れるか。
戦うか。
交渉するか。」**
ミナが、
一歩前へ出る。
**「……私も……
考えます……
一緒に……」**
誰も、
それを止めなかった。
◆夜への予感
夕暮れ。
村の外で、
意図的に折られた枝が見つかる。
獣ではない。
人の手だ。
ラウルが、
剣を担ぎ直す。
「……小物じゃねぇな……」
セリアが目を細める。
「試しに来てる。」
リアが頷く。
「村の“自立度”を……
測りに……」
ミナは、
静かに拳を握った。
(……また……
選ぶ時が来る……)
──第176話へ続く




