表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

171/234

第171話 三つの来訪――世界が踏み込む朝

夜明け。


村の朝は、

いつもより早く始まった。


鳥の声より先に、

足音が聞こえたからだ。


◆最初に来たのは「王国」


村の入口に、

整然とした隊列が現れた。


鎧は磨かれ、

旗は掲げられ、

剣は鞘に収まっている。


先頭の騎士が、兜を外した。


「王国近衛隊長、アルベルトだ。

本村の安全確認と、

保護の申し出に来た。」


“保護”。


その言葉に、

村人たちの肩が強張る。


援助派の男が小声で言う。


「……また、守られるのか……?」


拒否派の若者が歯を噛む。


「守られた先に、

自由はあったか?」


未定派の老人は黙っている。


◆次に現れたのは「教会」


白いローブが、

朝霧の中から浮かび上がる。


祈りの光が、

地面を静かに照らした。


枢機卿が一歩前へ。


「争いは終わりました。

魂は傷ついています。

癒しと導きが必要です。」


“導き”。


セリアが小さく舌打ちする。


「言葉を変えただけで、

やってることは同じね。」


リアは顔色を変えない。


「でも、

信仰は拒めば“敵意”に変わります……」


ミナは、

無意識に拳を握っていた。


◆最後に「帝国」


拍子抜けするほど、静かだった。


鎧も旗もない。

数人の黒衣が、

木陰に立っているだけ。


その中の一人が、前へ出た。


「帝国観測局。

今回の衝突に関する、

事実確認のみ行う。」


“のみ”。


誰も信じなかった。


ラウルが小声で笑う。


「三者三様、

全員嘘つきだな。」


◆三つの視線、ひとつの村


王国は言う。


「保護を受ければ、

二度と戦火は来ない。」


教会は言う。


「信仰は、

選択の重荷を軽くする。」


帝国は言う。


「選択は観測対象だ。

干渉はしない。」


村人たちの視線が、

自然と集まる。


――カイルへ。

――ミナへ。


ここにいる誰よりも、

この状況を“動かせる”二人へ。


◆カイル、立つ


カイルは一歩前へ出た。


剣は抜かない。

拳も握らない。


ただ、立つ。


「村の意思は、

ここにいる連中全員のものだ。」


王国の隊長が眉をひそめる。


「だが、

代表が必要だろう。」


カイルは即答する。


「必要ねぇ。」


空気が凍る。


教会の枢機卿が、静かに言う。


「統率なき群れは、

必ず崩れます。」


**「崩れるかどうかは、


俺たちが決める。」**


帝国の男が、

わずかに笑った。


◆ミナの一歩


ミナが、カイルの隣に立つ。


声は震えていた。

だが、逃げなかった。


「……私たちは……

まだ、選んでいます。」


王国の隊長が問い返す。


「何を?」


ミナは、はっきり答えた。


「間違える自由を。」


ざわめき。


教会側に、

明確な不快の色。


帝国側に、

興味の光。


◆村の声


未定派の老人が、

ゆっくり前へ出る。


「わしらは、

まだ決めとらん。」


援助派の男が続く。


「助けは欲しい。

だが、

従う気はない。」


拒否派の若者が拳を握る。


「自由は手放さない。

でも、

孤立も選ばない。」


三つの立場が、

三つの言葉を発する。


だが――

一つも、外に委ねていない。


◆三勢力の沈黙


王国の隊長は、

一度だけ深く息を吐いた。


「……保護の件は、

保留とする。」


教会の枢機卿は、

祈りの光を弱めた。


「導きは、

求められるまで待とう。」


帝国の男は、

淡々と記録を取る。


「観測継続。」


三者とも、

引いた。


だが――

退いたわけではない。


◆嵐の前


三勢力が去ったあと、

村には奇妙な静けさが残った。


ミナが小さく言う。


「……これで……

終わり?」


カイルは首を振る。


「始まった。」


リアが静かに補足する。


「世界が、

“この村をどう扱うか”ではなく……

“この村が、世界をどう扱うか”を

考え始めました。」


セリアが苦笑する。


「厄介ね。」


ラウルが肩を鳴らす。


「面白ぇ。」


ミナは、深く息を吸った。


(……逃げない。

選ぶ。

何度でも。)


──第172話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ