第170話 静寂の中で――戦いのあと
夜の気配がようやく緩んだ。
村を包んでいた殺気は消え、
風が戻り、
星がひとつ、またひとつと顔を見せ始める。
黒星会は去った。
だが――
村には、戦闘の余熱だけが残っている。
◆村人たちの動き
援助派、拒否派、未定派――
三つの立場に分かれた人々が、
自然に広場へ集まっていた。
誰も声を荒げない。
誰も責めない。
誰も叫ばない。
ただ静かに、
震える息を抱えながら、
目の前の現実を受け止めていた。
援助派の男が呟く。
「……俺たちは……
守られた……」
拒否派の青年が返す。
「いや……
戦ったのは彼らだ……」
未定派の老人が首を振る。
「違う……
選んだのは、わしらじゃ……
逃げたのも、叫んだのも、
立ち止まったのも。」
ミナは、胸が強く揺れる。
(みんな……
見ていた……
聞いていた……
感じていた……)
カイルは、ただ黙って見守っていた。
◆戦いが残したもの
焼け落ちた草地。
崩れた土。
折れた木々。
村人たちは見つめる。
「これが……
戦いの跡か。」
「想像してたより……
小さいな……」
リアが静かに説明する。
「戦いが大きいか小さいかは、
跡ではなく……
動いた心で決まる。」
その言葉に、
誰も反論しなかった。
セリアが、サラリと続ける。
「跡は消えるわ。
でも……
意味は残る。」
ラウルが大剣を肩に担ぎ、苦笑する。
「意味なんて重く考えんな。
生き残った、それで十分だ。」
村人たちが、ゆっくりと頷いた。
◆リアの分析:黒星会の目的
夜空を見上げながら、
リアが静かに口を開いた。
「アズリエの目的は……
“選択の極限”を見たいことだと思います。」
ミナが訊ねる。
「極限……?」
リアは頷く。
「生きるか死ぬか……
守るか奪うか……
恐怖か希望か……
それらを選ぶ瞬間を、
アズリエは望んでいる……」
セリアが眉を寄せる。
「ただの観察者?」
リアは首を振る。
「違う……
観察ではなく――介入。」
ミナの背筋が緊張する。
(黒星会は去った。
でも終わってない……
終わらない……)
◆カイルとミナの会話
焚き火の前。
二人は並んで座る。
ミナがぽつりと呟く。
「……怖かった。」
カイルはすぐ答えない。
火を見つめている。
ミナは続けた。
「死ぬかと思った。
みんな死ぬと思った。
そして――
選ぶことが怖かった。」
カイルはようやく口を開いた。
**「怖がることを選んだんだ。
それで十分だ。」**
ミナは瞬きをする。
(怖がることを選んだ……?
選択って……
ただ結果じゃなくて……
気持ちそのものにもあるんだ……)
カイルは目を閉じる。
「選んだ以上は、
間違ってても前へ行ける。」
ミナは、少し震えながら微笑んだ。
「……前へ行く。」
◆外の世界が動く
夜。
村の周囲に、
三つの影が集う。
◆王国の影
近衛騎士の一団が森の外に到達。
指揮官が低く呟く。
「……先に戦闘が行われていたな。」
◆教会の影
祈りの光が森を照らす。
枢機卿は静かに言う。
「魂の揺らぎが深く響いている。」
◆帝国の影
観測局の兵士が黒服の残骸を回収。
影の男が笑う。
「面白い。」
村には――
まだ何も知らされていない。
しかし、
夜明けとともに、
3つの勢力が村へ接触する。
──第171話へ続く




