第169話 反撃の形――黒星会頭領との直接戦闘
村の中心。
焚き火の光が、
二人を照らしていた。
カイル
──動かず。
アズリエ
──揺らがず。
風が止まり、
世界が息を殺す。
◆開幕
アズリエが一歩踏み込んだ。
見えなかった。
最初の一歩は。
ただ距離が消えていた。
セリアが息を呑む。
「っ……近い!」
ラウルが歯噛みする。
「なんだこの速度……!」
リアが解析する。
「術式を身体に埋め込んでる……
『魔力制御の限界値』を無視してる……!!」
ミナが叫ぶ。
「カイル!!」
しかし――
カイルは動かない。
アズリエの掌が、
カイルの喉元に触れた。
その瞬間。
重力の塊のような衝撃が走る。
大地が沈み込む。
空気が砕ける。
村の家々が揺れる。
ミナが目を見開く。
(止まってる……!!
完全に……力で押さえ込まれてる……!!)
アズリエが静かに言う。
「終わりの形が見える。」
カイルは、低く答える。
「いいや。」
掌が――離れた。
押し返したのではない。
砕いた。
空気を。
圧力を。
術式を。
アズリエが目を細める。
「……破れた……?」
カイルは一歩進んだ。
「壊したんだよ。」
◆交差する力
次の瞬間、
互いの姿がかき消えた。
見えない速度。
見えない角度。
ただ、音だけが――
世界中に散った。
ドンッ
ズガァッ
ガギィン
ガガガガ!
ラウルが目を凝らしても見えない。
「速すぎだろ……!」
セリアが歯を食いしばる。
「あれ……
人間の戦いじゃない……!」
リアは解析不能で立ちすくむ。
「攻撃……
防御……
反応……
全部同時進行……!!」
村人たちは息もできない。
ミナだけが――
動きを見ていた。
(カイルは……
押している……
押されている……
両方だ……)
◆戦闘描写:肉体 vs 理論
アズリエは、技巧の塊だった。
重力式、反射式、衝撃式、無数の術式を
肉体に直接流し込む。
一撃で骨を砕く拳。
影を断ち切る掌打。
空気ごと潰す蹴り。
それらすべてが、
カイルへ殺到する。
しかし――
カイルは止める。
拳で。
肘で。
肩で。
身体全てで。
アズリエが問う。
「なぜ折れない。」
カイルは答える。
**「力は折れるもんじゃねぇ。
曲がるもんだ。」**
次の瞬間、
カイルの拳が、
アズリエの胸に沈んだ。
空気が震え――
アズリエが吹き飛ぶ。
地面を削り、
土煙を上げ、
距離を広げる。
だが、アズリエはすぐに立った。
微笑みを浮かべる。
「痛みは、認識だ。」
◆戦闘変化:術式解放
アズリエの身体から、
黒い紋様が燃え上がる。
「術式――解放段階。」
空気が崩壊する。
風が震える。
地が割れる。
セリアが驚愕する。
「戦いながら術式を書き換えてる……!」
リアが青ざめる。
「構造理解の速度が……
カイルと同等……!」
ラウルが武器を握り直す。
「やべぇ……
次の一撃で決まる。」
ミナが叫ぶ。
「カイル!!!」
カイルは答えるように、
拳を握った。
「来い。」
アズリエが地を割り、
一直線に突撃。
衝撃が世界を裂く――
◆衝突
拳と拳がぶつかった。
音がない。
ただ世界が歪む。
地面が砕け、
空気が吹き飛び、
炎が揺れ、
風が止む。
双方が後退。
決着は――
つかなかった。
◆精神と精神の侵入
衝突の余韻の中。
アズリエがミナを見た。
「あなたに問う。
世界が壊れる。
その時――
選べるのか。」
ミナは胸を押さえる。
(答えなんて……
まだ……)
アズリエは続けた。
「痛みのない未来を選びたいか。」
ミナは――
はっきり首を振った。
「痛くてもいい。」
村人たちが息を呑む。
アズリエの目が揺れた。
ミナは声を強めた。
**「痛い未来を選べるのが……
自由なんだ!!」**
次の瞬間――
黒星会の戦士たちの動きが狂った。
術式乱壊。
魔力暴走。
リアが叫ぶ。
「不定性反応が跳ね上がってる!!」
セリアが剣を構える。
「いまだ――!!」
カイルが踏み込む。
「壊す。」
頭部破砕。
胸骨粉砕。
背骨断裂。
三体――沈黙。
◆アズリエの反応
沈黙。
アズリエは――
静かに笑った。
「……可能性。
小さくない。」
そして、ひとこと。
「退く。」
黒星会の残存戦士たちが、
影のように退去する。
戦闘は――
終わった。
だが終わりではなかった。
◆最後の言葉
アズリエは、森に消えかけながら言う。
**「また会う。
世界が動き出す前に。」**
その声が、夜風の中に溶ける。
村に、静寂が戻る。
ミナは――
その場に崩れ落ちた。
涙と息と震えを抱えたまま。
カイルは隣に座り、
静かに言った。
「上出来だ。」
──第170話へ続く




