第159話 揺らぐ未来――世界が動く前兆
翌朝。
澄んだ空が広がり、風は優しい。
だが、村の人々の視線は落ち着かない。
昨日までより、
先を見る目が多かった。
◆未来の噂
台帳の前。
若い母親が、帳面を睨むように見つめていた。
「……この差は……
もっと広がるのかな……?」
隣の老人が返す。
「いや……
縮むかもしれん……
皆が、どうするか次第だ。」
近くにいた別の男が言う。
「この村……
あと一年も続くのか……?」
その言葉に、
周囲がわずかにざわつく。
未来を語る声が出始めた。
不安と期待が入り混じる声。
リアは、静かに呟く。
「……予測が始まりました……」
予測は、
不安を増幅させる。
セリアは鋭く言う。
「未来を語りだすと、
今を見なくなる。」
ラウルが、苦笑する。
「これが一番危ねぇ。」
◆未定派、増える
帳面に、新たな行数が増えていた。
援助派:11
拒否派:9
未定派:7
比率が変わる。
ミナは、息を止めた。
(……“決めない”人が……
増えていく……)
その瞬間――
ミナの心臓が、静かに締めつけられた。
自分の力が、
世界を“止めている”ような感覚。
だが――
それを肯定するでも否定するでもなく、
ただ受け取る。
◆世界の変化が届く
午後。
行商人が、珍しく急いだ様子で村に戻ってきた。
息を整えながら話す。
「……王国が……
この地域の正式管理を再検討してる……!」
周囲がざわめく。
「統制のため?
援助のため?
保護のため?」
行商人は首を横に振る。
「分からない。
ただ――
王国は、この村の数字に
興味を持ってる……」
リアが息を呑む。
「……数字……
台帳……
まさか……」
セリアの声に焦りが滲む。
「これ……
利用されるための
記録だった……?」
ラウルが舌打ちする。
「外の誰も置いてねぇのに……
外が動いてる。」
◆教会も反応する
同時刻。
教会関係者が、
村の外で祈りを捧げ始めた。
村人の一人が不安げに言う。
「……信仰を戻しに来た……?」
ミナは胸を押さえる。
信仰は邪魔していない。
否定もしていない。
なのに――
外側が揺れる。
リアの声が震える。
「選択は、
信仰と無信仰の線引きを曖昧にします。」
◆帝国の観測は深まる
夜。
村外れの丘に、
見慣れない影が立っていた。
帝国観測局の者だ。
直接は干渉しない。
ただ――
見ている。
ラウルが呟く。
「あいつら、本気で楽しんでるな。」
セリアが眼光を鋭くする。
「観測は、中立じゃない。
意味づけだ。」
リアが頷く。
「あれは……
世界の“前兆”です……」
◆ミナの反応
焚き火の前。
ミナは、膝を抱えていた。
「……未来が……
怖い……」
カイルは、火を見つめたまま答える。
**「未来を決める必要はない。
今だけで十分だ。」**
ミナは震える声で返す。
「……でも……
今は……
未来を作っちゃう……」
カイルは、少し考えてから言う。
**「どんな未来でも、
いまの選択で損なわれる価値はない。」**
ミナは、その言葉を胸に落とした。
(未来が壊れても、
今を選べるなら……
怖くても歩ける……)
◆転換点の足音
その夜。
広場でひそひそ声が届いた。
「……未定のままじゃ……
誰も幸せにならない……」
「選べなくて……
苦しんでる人もいる……」
理屈では説明できない声。
でも、確かに響く声。
リアは低く言う。
「……止まっていることが、
罪になる段階です。」
セリアが応える。
「明日か、明後日か……
次の動きが来る。」
ラウルが肩を鳴らす。
「衝突か、転換か……
面白くなってきた。」
そしてカイルは、ただ静かに言った。
「近い。」
──第160話へ続く




