第156話 外からの揺さぶり――結果を焦る世界
翌朝。
空が曇り気味で、風は冷たい。
天気のせいではない。
村そのものに、微かな重たさが降りていた。
援助を受けた家と、拒んだ家。
仕切りはない。
対立もない。
だが――
隔たりが生まれた。
そして、外の世界はその隙間に、
静かに手を差し込んできた。
◆援助受け入れ派への誘導
昼前。
援助を受け入れた家の前に、
新たな手紙と物資が届いた。
食糧ではなく――
衣類、器具、薬草、学用品。
より生活に根付く形。
より日常に結びつく形。
使者はいない。
送り主の名もない。
だが、意図は明らかだった。
リアが分析する。
「……衣類と学用品……
“文化”と“未来”の提示です。」
セリアの声が低い。
「家族を持つ者には効く。」
ラウルは肩をすくめる。
「悪意じゃねぇ。
だが、恩は深くなる。」
◆拒否派への甘い誘い
同時刻。
援助を拒んだ家へ、別の書簡が届く。
上質な紙。
短く整った文。
《あなたが選んだ自由を尊重します。
どうか、誇りを持ってください。
その選択は、きっと報われる。》
甘い。
優しい。
だが――期待を植え付ける。
セリアが眉を寄せる。
「……拒否派を誇りで縛る気ね。」
リアが苦い顔で頷く。
「“結果を出さなければならない”というプレッシャーです。」
◆村が揺れる
夕暮れ。
広場の端で、数人が話していた。
怒っていない。
責めていない。
ただ、戸惑っている。
「……受けた家の方が、
暮らしやすくなるだろう……?」
「拒んだ家は、
本当に自由なんだろうか……?」
「どっちが正しいとかじゃなくて……
“損得”が出始めてるんだ……」
ミナは、胸が痛む。
(……自由って……
平等じゃない……)
それが、真実だった。
◆ミナの力が拒むもの
夜。
焚き火の前。
火の揺らぎが、顔を照らす。
ミナは、少し震えながら言った。
「……私の力は……
きっと……
みんなを仲良くさせない……」
リアが、静かに答える。
「ええ。
あなたの力は、“調停”ではありません。」
セリアが続ける。
「争わない世界を作れる力じゃない。
選ぶ世界を作る力。」
ラウルは、短く補う。
「そりゃ、しんどい世界だ。」
ミナは、俯く。
(……つらい世界を……
選ばせてる……?)
◆カイルの答え
カイルは焚き火を見つめたまま言う。
**「選ばせる力は、
正解を与えない。」**
ミナが顔を上げる。
**「だから……
誰かが“正しい”って言い出すまでは、
間違いにならない。」**
ミナの呼吸が、少し整う。
(……正しい答えを与えないことと、
間違いにさせないことは……
同じじゃない……)
◆世界、焦る
同じ頃。
三勢力も動いていた。
王国
《結果を求めよ》
――援助派への圧力を強める提案が進む。
教会
《誇りを刺激せよ》
――拒否派を精神的に支援し、象徴化を狙う。
帝国
《観測継続。揺れるまで待て。》
――静観に徹し、崩壊ではなく変化を期待。
世界は、結果を求めている。
“成功”か、“失敗”か。
“勝利”か、“崩壊”か。
だが村は――
どちらにも寄らない。
◆最後の一言
夜の終わり。
ミナが、
カイルに小さな声で訊ねた。
「……村が……
壊れたら……?」
カイルは、長く考えた末に答えた。
**「壊れたなら、
壊れた先で選べばいい。」**
ミナは、驚き――
そして微笑んだ。
恐怖が、すべてではなかった。
──第157話へ続く




