第155話 選択の代償――分かたれる道
朝。
夜通しの議論の名残が、村に残っていた。
声は枯れ、
目は腫れ、
胸の奥はまだ揺れている。
だが――
誰も、後ろめたさを抱いていなかった。
◆二つの意見
村の広場。
老人が立ち上がる。
昨日と同じ声、
だが、震えていない。
「……俺たちは……
“援助”を受けたい。」
ざわ、と空気が動く。
その対面で、若い母親が言う。
「私は……
“自由”を選びたい……
子どもに、自分で選ぶ背中を見せたい。」
言い争いではなかった。
怒号もなかった。
ただ――真剣さだけがあった。
リアが、息を詰めて見守る。
セリアが、腕を組む。
ラウルが沈黙を守る。
ミナは、胸を抱いて震えていた。
(……どっちも……
正しい……)
◆ミナへの声
広場の端で、
一人の村人がミナに歩み寄る。
「……あなたは、どう思う?」
怖い質問だった。
でも、逃げられない質問だった。
ミナは、喉を鳴らす。
「……私……
誰の自由も……
“代わりに決めたくない”……」
村人は、困った顔で微笑んだ。
「決めてほしかったんだ。」
そう言われるのが、
一番痛かった。
◆カイルの介入
カイルが、静かに言う。
「彼女に決めさせるな。」
村人が驚く。
「……でも……
彼女は……
力が……」
カイルは、遮った。
**「力があるから、
決めさせるのか?」**
その一言で、
空気が止まった。
続ける。
**「誰かを掴めば、
掴んだ手が支配になる。
手を引けば、
背中を向けることになる。
彼女には――
どちらもさせない。」**
誰も反論できなかった。
◆選択の儀式
村人たちは――
ついに決断した。
方法は、投票でも、合意形成でもない。
「各家が、
自分の家族の意見で
動く。」
援助を受ける家は、受ける。
拒む家は、拒む。
村全体で一致しない。
だからこそ――
一人ひとりが選ぶ。
リアが息を呑む。
「……共同体の統一を……
捨てた……」
セリアは震える声で言う。
「自由の代償は……
孤立……」
ラウルは静かに頷いた。
「だが、生き残る。」
◆ミナの力の性質
ミナは気づく。
自分の力は――
「一致」や「団結」を生まない。
争いを消さない。
対立を止めない。
ただ――
“選択を邪魔しない”だけ。
ミナの中に言葉が浮かぶ。
(……私の力は……
平和を作らない……
鎖も断ち切らない……
ただ……
“選ばせる”……)
怖かった。
でも――誇りだった。
◆村の未来
援助を受ける家の前には、
また贈り物が並んだ。
拒む家の前には、
何もない。
差が生まれる。
溝ができる。
でも――
誰も押し付けられていない。
リアが呟く。
「……この村は……
壊れずに、
変わる……」
カイルは、静かに答えた。
**「“正しい”形じゃない。
でも――
“自分で決めた”形だ。」**
◆余波:外の世界
夜。
三勢力に報告が届く。
王国
《統制不能地域、確立》
宰相は苦く笑う。
「統治の対象から外れるな。」
教会
《信仰は減らず、不満も減る》
枢機卿は手を震わせる。
「どう説明すればいい……」
帝国
《自律体制に移行。依存率低下》
影の男は呟く。
「世界が変わる」
◆焚き火の前
ミナが、カイルを見つめる。
「……怖いね。」
カイルは、静かに返した。
**「怖くていい。
怖いという選択を、
誰にも奪われないなら。」**
ミナは、涙を一粒だけ落とした。
──第156話へ続く




