第154話 裂け目――拒絶が生む対立
朝。
村の空気は、昨日までより少し重かった。
目に見える変化はない。
だが――
言葉が、減っている。
◆村の中の違和感
井戸端。
中年の男が、低い声で言う。
「……正直に言うとよ……
あの贈り物……
助かったんだ……」
別の男が、頷く。
「返さなくても……
よかったんじゃないか……?」
誰も怒っていない。
誰も責めていない。
だが――
意見が割れ始めている。
リアが、小さく言う。
「……これが……
最初の裂け目です……」
セリアが眉を寄せる。
「拒絶は正しい。
でも……
全員が同じ強さで
正しさを受け取れるわけじゃない。」
ラウルが腕を組む。
「腹が減ってりゃ、
正論は刺さるからな。」
◆“善意”の再来
昼前。
再び、使者が現れた。
昨日と同じ服装。
同じ穏やかな声。
**「返礼、確かに受け取りました。
ですが……
我々は、
助けたいだけなのです。」**
村人の一人が、
思わず言う。
「……助けてもらえるなら……」
その言葉が、
空気を割った。
ミナの胸が、痛む。
(……私たちの選択が……
誰かを苦しくしてる……?)
◆対話の失敗
セリアが前に出る。
「助けたいなら、
条件を言いなさい。」
使者は、少しだけ困った顔をする。
**「条件、というほどでは……
定期的な報告と、
簡単な安全確認だけです。」**
リアが、即座に理解する。
「……管理……
それも、
“自覚させない形”……」
使者は、否定しない。
「安心のため、です。」
◆村人の選択
沈黙。
村人たちが、
互いの顔を見る。
一人の老人が、
ゆっくり口を開いた。
「……若い頃……
王国の“安心”で……
土地を取られた……」
別の者が、
不安げに言う。
「……でも……
今は……
怖いんだ……」
守られない不安。
縛られる安心。
その間で、
心が揺れる。
◆ミナの衝突
ミナは、
思わず前に出た。
**「……私……
皆さんに……
同じ答えを
押し付けたいわけじゃない……」**
声が、震える。
**「……でも……
“楽な方”を
誰かが決めると……
戻れなくなる……」**
使者が、静かに言う。
「それは……
あなたの考えです。」
「はい……」
ミナは、
逃げなかった。
**「……だから……
皆さんが……
決めてください……」**
村人たちが、
息を呑む。
◆決断の場
使者が、
一歩引く。
**「……今すぐの返答は、
求めません。」**
その言葉が、
逆に重かった。
リアが、低く言う。
「……時間が……
圧力になります……」
◆夜――初めての対立
夜。
焚き火の周りで、
村人たちの議論が続く。
声が荒くなる場面もある。
誰も悪くない。
だから、
止められない。
ミナは、
俯いていた。
◆カイルの言葉
カイルは、
ミナの前に立った。
「間違ってない。」
ミナが、
顔を上げる。
**「……でも……
傷つけた……」**
カイルは、
静かに答えた。
**「選ばせるってのは、
そういうことだ。」**
逃げ道はない。
だが――
誤魔化しもない。
◆裂け目は、残る
その夜。
村は、
答えを出さなかった。
だが――
もう戻れない。
“誰かが決める村”には。
──第155話へ続く




