第152話 暴かれるか、語るか――過去を巡る攻防
朝。
村に、また一つ“違和感”が混じった。
人の数は増えていない。
だが、視線が増えている。
リアが、低く言う。
「……情報屋です。
しかも、
“善意の顔”をしています。」
セリアが眉をひそめる。
「王国? 教会?」
リアは首を振った。
「……どちらとも言えない。
“語らせることで守る”系ですね。」
ラウルが吐き捨てる。
「一番信用ならねぇ。」
◆“同情”という介入
昼。
旅人風の男が、
村人の前で穏やかに話す。
「……あの剣士……
大変な過去を……
知っていますか……?」
声は優しい。
言葉は、慎重。
だが――
方向は一つ。
“語らせたい”。
ミナは、胸が苦しくなる。
(……それ……
守るつもりで……
縛るやつ……)
◆選択肢は二つ
リアが、カイルに言う。
「このまま放置すれば……
過去は、
“物語”にされます……」
セリアが続ける。
「語れば、
同情は集まる。
でも……
“象徴”になる。」
ラウルが、短く言う。
「黙れば、
勝手に盛られる。」
沈黙。
どちらも、
管理に繋がる道だった。
◆ミナ、前に出る
その時。
ミナが、一歩踏み出した。
「……私が、話します。」
全員が、彼女を見る。
カイルが、低く言う。
「……無理するな。」
ミナは、首を振った。
**「……これは……
私の問題でもあるから……」**
◆“語らせない”という宣言
ミナは、旅人風の男の前に立った。
声は、震えていた。
だが、逃げなかった。
**「……彼の理解は、
“知ること”から
始まりません。」**
男が、戸惑う。
「……どういう……?」
**「知った気になることが、
一番、危ないんです。」**
その場の空気が、止まる。
**「彼は、
かわいそうな人じゃない。
救われる物語でもない。」**
村人たちが、
静かに聞いている。
**「……だから……
誰の“題材”にも
ならないでください。」**
それは、
丁寧で、
しかし明確な拒否だった。
◆カイルの選択
カイルは、前に出た。
**「過去は、
語らない。」**
旅人風の男が、
苦笑する。
「……それでは……
誤解が……」
「誤解でいい。」
短い言葉。
だが、
完全な遮断だった。
◆勢力側の反応
その夜。
王国は、
“保護的沈黙”を選ぶ。
教会は、
“語られない理由”に警戒を強める。
帝国は、
報告書に一行だけ書いた。
**《当該個体、
自己神話化を拒否》**
影の男は、
その文を見て笑った。
「……厄介だ。」
◆ミナとカイル
夜。
焚き火の前。
ミナが、そっと言う。
「……出しゃばった……?」
カイルは、首を振る。
「助かった。」
ミナは、驚いて目を見開く。
**「……守るのは……
一人じゃない……」**
カイルは、短く頷いた。
──第153話へ続く




