第151話 掘り起こされる過去――選ばれなかった理由
それは、英雄譚ではなかった。
悲劇ですらない。
ただ――
世界が間違えた記録だった。
◆王国の古文書庫
埃を被った帳簿が、机に広げられる。
若い官僚が、声を潜める。
「……地方小貴族エルスト家……
事故死……火災……
生存者一名……」
宰相が、淡々と促す。
「続けろ。」
**《当主夫妻、死亡
邸宅全焼
原因:魔力炉暴走
責任者:不明》**
官僚が眉をひそめる。
「……不自然です……
魔力炉の管理記録が……
丸ごと抜け落ちている……」
宰相は、目を細めた。
**「“誰か”が、
触れた痕跡だな。」**
◆教会の“選定”
十数年前。
聖典庁の小さな祭壇。
列をなす子どもたちの中に、
一人の少年がいた。
痩せて、無口で、
目だけが異様に澄んでいる。
神官が、聖具を掲げる。
光が、走る。
子どもたちが、次々と反応を示す。
歓声。
祝福。
選定。
だが――
少年の前だけ、沈黙。
聖具は、
何も示さなかった。
神官が、困惑して言う。
「……反応、なし……?」
別の神官が、苛立ちを滲ませる。
「記録ミスだ。
もう一度。」
結果は、同じ。
《選定拒否》
その言葉が、
書き込まれた。
◆拒否されたのは、力ではない
地下記録。
封印文書。
**《対象:カイル
魔力量:規格外
適性:未定義
危険性:測定不能》**
神官の走り書きが、残っている。
**《“選ばれる”構造に
適合しない》**
それが、理由だった。
◆世界の判断
当時の決定は、迅速だった。
勇者候補から除外
教会保護対象外
王国記録から抹消
“扱えないものは、なかったことにする”。
それが、世界の選択。
◆生き残った少年
焼け跡。
瓦礫の前で、
少年は立っていた。
泣かなかった。
叫ばなかった。
ただ、
誰も来なかった。
王国も。
教会も。
「……生きてるな。」
声をかけたのは、
名もなき旅人だった。
◆現在――焚き火の前
話し終えたカイルは、
火を見つめたままだった。
誰も、すぐに言葉を発さない。
最初に口を開いたのは、ミナだった。
「……それ……
ひどい……」
カイルは、首を振る。
「よくある話だ。」
セリアが、歯を食いしばる。
「……“よくある”で
済ませる話じゃない……」
リアが、震える声で言う。
「……選ばれなかったのではなく……
“選ばせなかった”……」
ラウルは、静かに拳を握った。
◆ミナの視点
ミナは、初めて理解した。
カイルが、
なぜ誰の正義も背負わないのか。
なぜ、
管理されることを拒むのか。
**「……だから……
“選ぶ”んだね……」**
カイルは、短く答えた。
「選ばれなかったからな。」
◆過去は、武器になる
同時刻。
王国・教会・帝国。
それぞれが、
この事実に辿り着き始めていた。
それは――
攻撃材料にも、
懐柔材料にもなる過去。
──第152話へ続く




